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自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?症状・特徴・診断・治療法まとめ

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発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害(ASD)。

自閉症スペクトラム障害は、以前は典型的な自閉症に加え、特性の目立ちかたや言葉の遅れがあるかないかなどによって、アスペルガー症候群や特定ができない広汎性(こうはんせい)発達障害などに分けられていました。

しかし、典型的な自閉症は言葉の遅れからコミュニケーションをとるのが難しく、アスペルガー症候群は言葉の遅れがなく比較的コミュニケーションに困難がみられないという特徴があります。

こういった違いがある一方で、典型的な自閉症とアスペルガー症候群には対人関係の難しさ・こだわりの強さなど、共通した特性も認められます。

そのため、これらを別々の障害として捉えずに、"さまざまな特性のある一つの集合体"として捉えようとするのが『自閉症スペクトラム障害』の考え方です。

また、最近の調査では、子どもの20~50人に1人が自閉スペクトラム障害と診断されるとも言われています。男性に多くみられ、女性の約2~4倍という調査結果も出ています。

本記事では、自閉症スペクトラム障害の症状や特徴、診断基準、治療法などについて詳しくご紹介します。

 

1.自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難と限定された反復的な行動や興味、活動が表れる障害です。ASDは、英名のAutism Spectrum Disorderの略称です。

さらに知的障害や言語障害を伴う場合と伴わない場合があります。また、これらの症状は年齢や環境などによって大きく変化するといわれています。

自閉症スペクトラム障害は、生活に支障をきたすほど症状が強い方から、症状が軽度で日常生活にほとんど支障なく暮らせる方まで様々です。こういった症状の強弱や、知的障害を伴う場合・伴わない場合などによって、それぞれに合った理解やサポートが必要な障害です。

また、自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていません。しかし、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられており、しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないということはわかっています。

脳機能障害を引き起こすメカニズムとして、遺伝的な要因が原因の一部であると推測されています。さまざまな議論・研究がされている中で、何らかの先天的な遺伝要因に様々な環境的な要因が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が現在有力とされています。

 

2.自閉症スペクトラム障害の定義は?

複数の自閉症状のある障害が統合されてできた自閉症スペクトラム障害ですが、文部科学省では、この障害を以下のように定義しています。

自閉症スペクトラムとは,自閉的な特徴がある人は,知能障害などその他の問題の有無・程度にかかわらず,その状況に応じて支援を必要とし,その点 では自閉症やアスペルガー症候群などと区分しなくてよいという意味と,自閉症や アスペルガー症候群などの広汎性発達障害の下位分類の状態はそれぞれ独立したものではなく状態像として連続している一つのものと考えることができるという二つの意味合いが含まれた概念である。したがって,自閉症スペクトラム障害には下位分類がなく,自閉的な特徴のある子供は全て自閉症スペクトラム障害の診断名となる。

出典:自閉症とは

 

3.自閉症スペクトラム障害という診断名について

自閉症スペクトラム障害は、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた診断名です。

2013年に出版されたアメリカ精神医学会のDSM-5において「アスペルガー症候群」、「高機能自閉症」、「早期幼児自閉症」、「小児自閉症」、「カナー型自閉症」など様々な診断カテゴリーで分けられていたものを、『自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害』の診断名で統合されました。

以前は、自閉症やアスペルガー症候群などはそれぞれの症状に違いがあるとされ、それに伴い診断基準も異なるので、独立した別の障害として考えられてきました。

しかし、幼少期にアスペルガー症候群と診断された方が、年齢や環境などの変化によって自閉症と診断されたりすることがありました。また症状の強弱によって、生活に支障をきたす方もいれば、支障なく生活できる方もいます。

さらに、支援方法も共通であることが多いことから、"連続体"を意味する"スペクトラム"という言葉を用いて障害と障害の間に明確な境界線を設けない、一つの集合体として捉える考え方が採用されました。

『自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害』という診断名には、自閉症スペクトラム障害の症状には"多様性があり、連続体として重なり合っている"という考え方が込められています。

 

4.自閉症スペクトラム障害の主な症状・特徴

自閉症スペクトラム障害には、「社会的コミュニケーションおよび対人交流の困難」「限定された反復的な行動や興味、活動」の特徴的な2つの症状があります。

また、知的障害を伴う場合と伴わない場合があります。

【社会的コミュニケーションおよび対人交流の困難】
・他人と目を合わせない
・相手や状況に自分の行動をあわせることが苦手(皮肉やたとえ話を理解できず文字通り受け取る)
・難しい言葉や表現を好んで使う
・代名詞の理解が苦手
など

【限定された反復的な行動や興味、活動】
・小さな変化に苦痛を感じる
・柔軟な考え方をすることが苦手
・決まった順序や道順、食べ物にこだわる
など

自閉症スペクトラム障害の人は、対人関係を築くことが苦手で人の気持ちを推し量ることが難しく、そのため一人でいることを好む傾向にあります。コミュニケーションを取ることが苦手で、言葉の遅れやおうむ返し、言葉の意味を理解することが困難です。

コミュニケーションには重要な役割を果たす身振りや手振り、目の動きなどの意味合いを正確に察知することも苦手とします。

また、特定の物事に対してのみ強い興味をもつ、同じ手順を繰り返すことにこだわる、同じ動作を繰り返す、こだわりが強いことから、興味をもった領域に関して膨大な知識を持つなどの特徴を挙げることができます。

 

5.自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症時期と年齢ごとの特徴

自閉症スペクトラム障害の症状は、生後2年目までの間に気づかれることが多いとされます。人によって症状の重さに違いがありますので、症状が軽い方の場合は、生後2年目以降に気づかれることもあります。

一般には、小児期後期(15歳頃)には特徴が顕著となり、思春期には一部の症状は改善していくとされています。

自閉症スペクトラム障害は、成人期になって初めて診断される場合もあります。

この場合は、それまで生きてきた中で身についた自己認識が大きく覆されるため、困惑や混乱を感じる人もいます。しかし逆に、自閉症スペクトラム障害と診断されたことにより、それまで感じていた違和感が疾患によるものと判明してほっとする人も少なくありません。

また、仕事でのミスや失敗が原因で、人間関係やコミュニケーション上のストレス・問題に直面し、今までうまくいっていたことが思うように維持できなくなり、それによって適応障害やうつ病として心療内科等の病院を受診している場合、もとをたどって自閉症スペクトラム障害と診断されることもあります。

自閉症スペクトラム障害の症状は人によって個人差が大きいのですが、成長とともに変化していきます。そこで、大まかな年齢ごとの症状をご紹介しますので、参考にしてみてください。

0歳〜小学校就学前の幼少期に出る特徴

発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、その特徴となる症状が分かりにくいです。ですので、生後すぐに自閉症スペクトラム障害の診断が出ることはありません

ただ、自閉症スペクトラム障害と診断される方の幼児期を後から振り返ってみると、次のような特徴的な行動をとっていたことが多いと言われています。

■周囲に興味を示さない
視線を合わせようとしない・他の子どもに興味を示さない・名前を呼んでも振り返らないといったような子が多いです。

子どもは興味をあるものを指で指して示すという行動をしますが、自閉症スペクトラム障害がある子は指さしをして興味を伝えることをしない傾向があります。

■コミュニケーションを取るのが困難
知的障害を伴う場合と伴わない場合があるとお伝えしましたが、知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害がある子は、言葉の遅れやオウム返しなどの特徴がみられます。

また会話において、言葉のキャッチボールをすることができずに一方的に言いたいことだけを言ってしまったり、質問に対してうまく答えられないなどの特徴があります。

そういった特徴から、定型発達の子は友達との遊びを好むのに対して、自閉症スペクトラム障害がある子は集団での遊びにあまり興味を示さない傾向があります。

■強いこだわりを持つ
興味を持つことに対しては何度も繰り返し同じ質問をします。また、日常生活においてあらゆるこだわりを持っていることが多いので、環境が変わったりものごとの手順が変わると混乱してしまう傾向があります。

小学校卒業までの児童期に出る特徴

■集団に馴染めない
周囲にあまり配慮せずに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう子が多いです。人と関わるときもありますが、そういった時は何かしてほしいことがあるときだけで、基本的にはひとり遊びを好みます。人の気持ちや意図を汲み取ることを苦手とする子も多いです。

■臨機応変に対応するのが苦手
臨機応変に対応することが苦手な傾向にあり、きちんと決められたルールを好む子が多いです。

■どのように・なぜといった説明が苦手
言葉の遅れがあり、単語を覚えても意味を理解することが難しい場合があります。また、自分の気持ちや他人の気持ちを言葉にしたり、想像することも苦手なので、どのように・なぜといった説明がうまくできないこともあります。

小学校卒業後〜成人期に出る特徴

■話し方が不自然
言葉に抑揚がないなどといった不自然な話し方が目立つ場合があります。

■人の気持ち・感情を読み取るのが苦手
コミュニケーションが苦手で、人が何を考えているのかなどを考えるのも苦手な傾向にあります。

■雑談が苦手
目的の無い会話、いわゆる雑談をするのを難しく感じる人が多いです。

■興味のあるものに没頭する
物事に強いこだわりを持つので、興味のあることに対してはとことん没頭することが多く、そのためその分野で大きな成果をあげられることもあります。

 

6.自閉症スペクトラム障害の診断基準

自閉症スペクトラム障害の診断基準は「社会的コミュニケーション」と「限定的な行動・興味・反復行動」の2領域に統合されています。

また、これまでは3歳以前の発症が診断基準に規定されていたのですが、自閉症スペクトラム障害では年齢の規定が緩められて、成人になってからの発症も診断基準として許容されることになりました。

以下に、自閉症スペクトラム障害という診断名を出した『DSM-5』における診断基準を紹介します。自閉症スペクトラム障害と診断するためには、「社会的コミュニケーション」領域のもとに分類される3項目すべてを満たした上で、「限定的な行動・興味・反復行動」領域の4項目中2項目の合わせて5項目を満たす必要があります。

DSM-5による自閉スペクトラム症の診断基準

A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり,現時点または病歴に よって,以下により明らかになる(以下の例は一例であり,網羅したものではない)。
⑴ 相互の対人的・情緒的関係の欠落で,例えば,対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないこと といったものから,興味,情動,または感情を共有することの少なさ,社会的相互反応を開始したり応じたりす ることができないことに及ぶ。
⑵ 対人的相互反応で非言語コミュニケーション行動を用いることの欠陥,例えば,まとまりの悪い言語的・非言語 的コミュニケーションから,視線を合わせることと身振りの異常,または身振りの理解やその使用の欠陥,顔の 表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
⑶ 人間関係を発展させ,維持し,それを理解することの欠陥で,例えば,様々な社会的状況に合った行動に調整することの困難さから,想像上の遊びを他人と一緒にしたり友人を作ることの困難さ,または仲間に対する興味の 欠如に及ぶ。

B.行動,興味,または活動の限定された反復的な様式で,現在または病歴によって,以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であり,網羅したものではない)。
⑴ 常同的または反復的な身体の運動,物の使用,または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするな どの単調な常同運動,反響言語,独特な言い回し)。
⑵ 同一性への固執,習慣へのかたくななこだわり,または言語的・非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に 対する極度の苦痛,移行することの困難さ,柔軟性に欠ける思考様式,儀式のようなあいさつの習慣,毎日同じ 道順をたどったり,同じ食物を食べたりすることへの要求)。
⑶ 強度または対象において異常なほど,きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着ま たは没頭,過度に限定・固執した興味)。
⑷ 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ,または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関 心のように見える,特定の音,感覚に逆の反応をする,対象を過度に嗅いだり触れたりする,光または動きを見 ることに熱中する)。

C.症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が能力の限界を超えるまで症状は明らかにならな いかもしれないし,その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)。

D.その症状は,社会的,職業的,または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こして いる。

E.これらの障害は,知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明できない。知的能力障害と自閉 スペクトラム症はしばしば同時に起こり,自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには,社会的 コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。

出典:自閉スペクトラム症と児童精神科医療

 

7.自閉症スペクトラム障害の診断方法は?

いきなりの医療機関での受診はちょっと…という場合には、まずは専門機関への相談を事前に行うことをおすすめします。身近な相談センターに行って相談し、そこから専門医を紹介してもらえます。

医療機関での診断は、子どもの場合は、専門外来のある小児科、脳神経小児科、児童精神科などで行われることが多いです。

18歳以上の場合は精神科や心療内科などで診断できます。また、保健センターなどでは知能検査や適応能力を診断する検査を受けられるところもあります。

詳しくはこちらのページをご覧ください:
自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は?治療方法はあるの?病院はどこにいけばいいの?

 

8.自閉症スペクトラム障害の治療法は?

自閉症スペクトラム障害の根本的な治療法や手術はまだ確立されていませんが、早期からの療育や環境調整などを行うことで症状を緩和したり困りごとを軽減することができます。

教育・療育によるアプローチで本人が困難への対応法を学んだり、保護者や家族が困難を未然に防ぐためのフォローなどを学び、お互いに生きやすい環境をつくっていくことが可能です。

詳しくはこちらのページをご覧ください:
自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は?治療方法はあるの?病院はどこにいけばいいの?

 

9.まとめ

本記事では、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた『自閉症スペクトラム障害』についてまとめました。

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難と限定された反復的な行動や興味、活動が表れる障害
  • 自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていないが、先天的な遺伝要因に様々な環境的な要因が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が有力
  • 自閉症スペクトラム障害は、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた診断名
  • 診断名には、自閉症スペクトラム障害の症状には"多様性があり、連続体として重なり合っている"という考え方が込められている
  • いきなりの医療機関での診断はハードルが高いという場合は、まずは専門機関への相談を事前に行うとよい
  • 自閉症スペクトラム障害の診断は、子どもの場合は、専門外来のある小児科、脳神経小児科、児童精神科など、18歳以上の場合は精神科や心療内科などで診断できる
  • 根本的な治療法や手術はまだ確立されていないが、療育や環境調整などを行うことで症状を緩和したり困りごとを軽減することができる

自閉症スペクトラム障害は、いくつかの自閉症関連の障害が統合されてできた診断名です。症状は発達段階や年齢、環境によって変化するため検査の結果や診断名も年齢やその時の状況によって変化する場合があります。

ご家族や周囲の人は、自閉症スペクトラム障害という枠で対応を考えるよりも、本人のその時々の状態に合わせてサポートし、接していくことが大切です。

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