ADHDは注意欠如・多動性障害とも呼ばれ、「不注意」、「多動性」、「衝動性」の主な3つの症状がみられる発達障害の一つ。周りに理解されづらく、仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがある発達障害です。
ADHDは人によってその現れ方の傾向が異なり、大きく3つのタイプに分けることができます。本記事では、ADHDの3つの症状や3つのタイプ、年齢別に見たADHDの症状のあらわれ方、診断基準、治療法などについて詳しくご説明します。
1.ADHD(注意欠陥・多動性障害)とは?
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は不注意(集中できない)、多動性(落ち着きがない)、衝動性(待てない・考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。年齢や発達に不釣り合いな行動が仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがあります。
原因は明確にはわかっていませんが、生まれつきの脳の機能障害だということがわかってきています。
人口調査によると、子どもの20人に1人、成人の40人に1人にADHDが生じることが示されています。1クラス40人の学校の場合、1クラスに2人ずつADHDの子がいることになります。
以前は比較的男性に多く発症すると言われていましたが、現在ではADHDの男女比は同じくらいになってきていると報告されています。近年では、子どもだけではなく大人になってからADHDと診断される人も多くいます。
2.ADHDの定義は?
文部科学省はADHD(注意欠陥・多動性障害)を以下のように定義しています。
ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。
また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
上記の文部科学省の定義では7歳以前に症状が現れるとされていますが、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』では、診断年齢は12歳に引き上げられています。
3.ADHDの主な3つの症状
ADHDの主な症状は「不注意」、「多動性」、「衝動性」で、こうした症状が学校と家庭など、少なくとも2つ以上の状況であらわれます。大人のADHDでも主な症状は同じです。
(1)不注意
「不注意」の具体的な特徴です。
- 忘れ物が多い
- 何かやりかけでもそのままほったらかしにする
- 集中しづらい、でも自分がやりたいことや興味のあることに対しては集中しすぎて切り替えができない
- 片づけや整理整頓が苦手
- 注意が長続きせず、気が散りやすい
- 話を聞いていないように見える
- 忘れっぽく、物をなくしやすい
(2)多動性
「多動性」の具体的な特徴です。
- 落ち着いてじっと座っていられない
- そわそわして体が動いてしまう
- 過度なおしゃべり
- 公共の場など、静かにすべき場所で静かにできない
(3)衝動性
「衝動性」の具体的な特徴です。
- 順番が待てない
- 気に障ることがあったら乱暴になってしまうことがある
- 会話の流れを気にせず、思いついたらすぐに発言する
- 他の人の邪魔をしたり、さえぎって自分がやったりする
子どもの場合は「ルールや決まりを忘れてしまう」、「やるべきことを記憶するのが苦手」、「運動、衝動のコントロールができない」などといったような実行機能に障害があらわれたり、「目的ある行動のための動機づけが困難」、「自分が楽しい、興味があることでないと動機づけがしにくい」などといったように未来のために何かを頑張るということができず、「今」楽しいことや満足できることを追求します。
大人の場合ですと、子どもの場合と同様に、主に「集中できない」、「待つのが苦手で衝動的」などの特徴がある中で、仕事場ではそれが「物事を先送りにしてしまい、仕事に取り掛かれない」、「約束や責務を果たせない」、「うまく計画や準備をすることができない」などの"仕事ができない"ととられるような症状としてあらわれ、仕事ができない人というレッテルを貼られてしまうことも多々あります。
4.ADHDの3つのタイプと各々の特徴
ADHDは人によってその現れ方の傾向が異なり、「多動性-衝動性優勢型」「不注意優勢型」「混合型」の大きく3つのタイプに分けることができます。
(1)多動性-衝動性優勢型(ドラえもんでいうジャイアン型)
いじめっ子のジャイアンは、「多動」と「衝動」の症状が強く出ているタイプで、次のような特徴が現れることがあります。
- 落ち着きがなく、授業中などでも歩き回ったりしてしまうなど、落ち着いてじっと座っていることが苦手
- 衝動が抑えられず、大声を上げたり乱暴になったりしてしまう
- 衝動的に不適切な発言をしたり、自分の話ばかりをする
- せっかちで順番が待てない
- 男性(男の子)に多い
(2)不注意優勢型(ドラえもんでいうのび太型)
いじめられっ子ののび太は、「不注意」の症状が強く出ているタイプで、次のような特徴が現れることがあります。
- 気が散りやすくて、物事に集中することが苦手
- やりたいこと、好きなことに対してはとても集中して取り組むが切り替えが苦手
- 忘れ物や物をなくすことが多く、ぼーっとしているように見えて人の話を聞いているのか分からない
- 整理整頓が苦手
- ケアレスミスが多い
- 不注意の特性は女性(女の子)に現れることが多い
(3)混合型
「ジャイアン」と「のび太」。「多動と衝動」と「不注意」の症状が混ざり合って強く出るタイプです。次のような特徴が現れることがあります。
- 多動性-衝動性優勢型と不注意優勢型のどちらの特徴も併せ持っており、どれが強く出るかは人によって異なる
- 忘れ物や物をなくすことが多く、じっとしていられず落ち着きがない
- 気が散りやすい、飽きっぽい
- ルールを守ることが苦手で順番を守らない、大声を出すなど衝動的に行動をすることがある
また、ADHDは自閉症スペクトラム(ASD)や学習障害(LD)など、他の発達障害などと合併することもあります。その場合は上記に挙げた症状以外の症状があらわれることもあります。
5.ADHDの診断時期・年齢は?
ADHDは、生後すぐには症状がわかりにくいので確認することは難しいです。2歳ごろから少しずつADHDの症状が顕著に見られるようになると言われています。親が子どもの症状を見て専門機関に相談したり、医療機関を受診して気づくケースが多いようです。
2〜3歳の時期に出る特徴
2~3歳の時期で多く見られる特徴は「多動性」。3歳児検診の際に疑いがあると診断されることもあります。
3〜4歳の時期に出る特徴
3〜4歳頃に自律することを覚え、社会のルールというものをなんとなくわかり始める頃ですよね。
ADHDが発症している子の場合はこの時期に、「集団行動ができない」「先生の言うことを聞くことができない」「じっとしていられない」「癇癪(かんしゃく)を起こしやすい」などといったような「多動性」の症状が目立つようになってきます。
6〜7歳の小学校就学時期に正確に認識
ADHDの特徴が正確に認識されるのは小学校就学の頃(6〜7歳ごろ)と言われています。もちろん、ADHDの検査はそれ以前から受けることができますが、診断が下されるのは就学前の7歳前後がもっとも多いと言われています。
低年齢の頃は「ADHDの疑い」として確定診断をせずに、慎重に診断・検査を行う医療機関もあります。ADHDと診断される平均年齢は男子は8歳、女子は12歳で、性別によっても異なります。
大人になってからの診断
また、子ども時代には気づかなかったけれど、大人になってからADHDと診断されている人も多くいます。これは、大人になってからADHDの特性が現れたわけではなく、子どもの頃からADHDの特性はあったがそれまで気がつかなかったことなどが考えられます。
アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』では、成長してからの症状の発現に留意し、ADHDの診断年齢が7歳以下から12歳以下へと引き上げられております。
大人の場合には、子どもの頃に多くみられる「多動性」の特徴がみられる人は少なくなりますが、「不注意」や「衝動性」の特徴から社会生活が困難に感じる人がいます。
6.ADHDの診断方法は?
ADHDの診断は主に、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』を用いて専門医によって行われます。本人への面談や検査、子どもの場合には家族からの情報提供なども含めて総合的に行います。何度か問診・検査を重ね、時間をかけて慎重に診断を下します。
ADHDの診断は、子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで受けることができ、大人になって検査・診断を初めて受ける場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科や精神科など専門の医療機関で受診することが一般的になります。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
ADHDの診断基準や検査内容は?
7.ADHDの治療法は?
薬や手術などでADHDを完全に治療することは、現在の医学ではできません。しかし、ADHDによる困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、ADHDの特徴を緩和する治療薬は存在します。
また完治させることはできないにしても、普段からの対応法を考えることによって、本人が生きやすい環境を作ることもできます。
子どものADHDの特徴を緩和させるためには、場合によっては投薬を行うこともありますが、まずは「教育・療育の支援」を行うことが一般的です。教育・療育には「環境調整」や「ソーシャルスキルトレーニング」、「ペアレントトレーニング」などがあります。
大人のADHDの治療法としては、主に心理社会的アプローチと薬物療法の2つがあります。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
ADHDの原因は?治療方法はあるの?病院はどこにいけばいいの?
8.まとめ
本記事では、ADHD(注意欠陥・多動性障害)はどういったものなのかを詳しくお伝えしました。
- ADHD(注意欠陥・多動性障害)は不注意、多動性、衝動性の3つの症状がみられる発達障害のこと
- 年齢や発達に不釣り合いな行動が仕事や学業、日常のコミュニケーションに支障をきたすことがある
- ADHDは人によってその現れ方の傾向が異なり、「多動性-衝動性優勢型」「不注意優勢型」「混合型」の大きく3つのタイプに分けることができる
- ADHDは生後すぐには症状がわかりにくく、2歳ごろからADHDの症状が顕著に見られるようになる
- ADHDの特徴が正確に認識されるのは小学校就学の頃(6〜7歳ごろ)
- 症状に気づきにくいこともあり、大人になってからADHDと診断される人も多い
- ADHDは『DSM-5』を用いて専門医によって行われ、何度か問診・検査を重ね、時間をかけて慎重に診断を下される
- 子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来など、大人の場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科や精神科など専門の医療機関で受診できる
- ADHDを完全に治療することはできないが、ADHDによる困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、ADHDの特徴を緩和する治療薬はある
近年では、ADHD(注意欠陥・多動性障害)は広く認識されてきています。
ADHDの不注意、多動性、衝動性といった症状は、子どもの場合は、保育所や幼稚園、小学校で友達とトラブルをおこしてしまったりすることも少なくなく、保護者としては困ってしまうことも多いかもしれません。しかし、心身の成長や適切なサポートを受けることによって、少しずつではありますが改善できます。
家族や周囲の人々が、他の発達障害との合併や、不登校・うつ病などの二次障害にも気をつけしっかりとサポートしていくことが大切でしょう。