学習障害(LD)は、特異的発達障害の一つで、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の内、いずれかまたは複数のものが著しく劣っている発達障害です。
学習障害にはさまざまなタイプがあり、症状のあらわれ方も人それぞれなので、診断が難しい障害とされています。
本記事では、そんな学習障害の種類とそれぞれの症状、そして、具体的な特徴や診断方法などについて詳しく解説していきます。
1.学習障害(LD)とは?
学習障害とは、知的発達にこそ遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6つの能力のうち、いずれかまたは複数のものが著しく劣っている発達障害のことです。英名はLearning Disabilityで、LDと略されます。
誰でも得意不得意はありますが、学習障害の場合は、苦手・不得意のレベルを超えて、それのみが極端にできないのです。
学習障害の原因は、多くは先天性の脳機能障害が推定されています。しかし、外傷による脳損傷での発症も知られており、また他の症候群の部分症状としても報告されることもあります。
学習障害は、基本的には知的発達に遅れが見られない発達障害であるため、知的障害とは全く別の障害となります。
2.学習障害(LD)の定義は?
学習障害の定義には、文部科学省が定義したものと、DSM-5などの医学的判断による定義があります。
まず、文部科学省は以下のように定義しています。
基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
次に、アメリカ精神医学会のDSM-5での学習障害の定義です。
学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも6ヶ月持続していることで明らかになる
文部科学省が定める学習障害の定義と、医学的な学習障害の診断基準の定義の間には、少し違いがあります。
文部科学省の定義に近い、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』とアメリカ精神医学会の『DSM-Ⅳ-TR』での3つの分類に従って、学習障害の特徴を解説していきます。
3.学習障害(LD)の症状と3つの種類
学習障害の種類は、主に
- 読字障害(ディスレクシア):「読み」が困難
- 書字表出障害(ディスグラフィア):「書く」が困難
- 算数障害(ディスカリキュリア):「計算する」「推論する」が困難
の3つに分かれます。
学習障害は、知的能力に問題が見られないことが多いので、発達障害の中でも判断が難しい障害です。
塾などに行かない限り、就学前に読み書きや計算を学ぶ子どもは少ないので、本格的な学習に入るまでは判断が難しく、障害に気づかないことも少なくありません。
学習障害による読み書きなどの困難と気づいてもらえずに、ただただ勉強が苦手な子なんだと判断されてしまい、大人になるまで気づかないといっことも多くあります。
学習障害の人は、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」6つの能力の全てが著しく劣っているというわけではなく、一部の能力だけに困難がある場合が多いです。
書く能力はあっても読むとなると極端にできなかったり、他教科はできても数学だけはほとんど理解ができないなど、ある特定分野に極端に偏りが見られます。「読む」ことができないという場合でも、ひらがな・カタカナは問題なく読むことができても漢字を読むことができないなど、その状態は人によってさまざまです。
また、「読む」と「書く」の学習障害が併せてあらわれる場合も多く見られます。
4.3つの学習障害それぞれの特徴
学習障害で分類される「読字障害(ディスレクシア)」「書字表出障害(ディスグラフィア)」「算数障害(ディスカリキュリア)」の3つの学習障害のそれぞれの特徴をご紹介します。
読字障害(ディスレクシア)
読む能力に困難がある読字障害(ディスレクシア)は、学習障害と診断された人の中で一番多く見られる症状です。欧米では約10~20%の人がこの症状があると言われています。
読字障害があると、結果として文字を書くことにも困難を感じる場合が多いため、「読み書き障害」と呼ばれることもあります。
読字障害の人の中には、「見た文字を音にするのが苦手」という症状があります。その原因は、情報を伝達し処理する脳の機能がスムーズに働いていないことだと考えられています。読字障害の場合、文字の見え方にも特徴があり、「文字がぼやけて見える」、「文字が黒いかたまりになって見える」、「逆さまに見える」、「図形に見える」など、周囲とは違った見え方となり、認知の仕方が異なります。
また、ひらがなやカタカナのひとつずつは理解していても、漢字(単語)になると理解できなくなってしまうこともあります。漢字の音読みと訓読みの使い分けができなかったり、単語や文節の途中で区切った読み方をするなど、変わった読み方をしてしまいます。
【読字障害の特徴】
・形の似た字「わ」と「ね」、「ワ」と「ク」などを理解できない
・「っ」「ょ」などの小さい文字を小さい文字と認識できない
・文章を読んでいる途中でどこを読んでいるのかわからなくなる
・耳からの情報は理解しやすく、音読してもらうと理解できる場合が多い
など
書字表出障害(ディスグラフィア)
「文字が書けない」「書いてある文字を写せない」などの書く能力に困難がある学習障害を書字表出障害(ディスグラフィア)と呼びます。文字が読めても、書けないという場合も書字障害に分類されます。
書字障害の原因としては、脳内で身体に指示を出し手を動かすという伝達機能がうまくいっていないからという説が有力です。そのため、文字が書けなかったり、文字を書く速度が遅くなってしまいます。
【書字表出障害の特徴】
・誤字脱字や書き順の間違いが多い
・黒板やプリントの字が書き写せない、時間がかかる
・漢字が苦手で、覚えられない
・文字の形や大きさがバラバラになったり、マス目からはみ出したりする
など
算数障害(ディスカリキュリア)
数字や数式の扱いや、考えて答えにたどり着く推論が苦手な学習障害を算数障害(ディスカリキュリア)と呼びます。算数障害の場合、数字に関する能力にのみ障害がある人が多く、そのためほとんどが算数の学習を始めてから発見されます。
算数障害の人は数字そのものの概念、規則性、推論が必要な図形の領域を認識することが困難で、また視覚認知の機能が弱く、数字を揃えて書く、バランスを考える、文字間の距離感を取るなどが苦手です。
【算数障害の特徴】
・簡単な数字、記号を理解するのが困難
・繰り上げ、繰り下げが理解できない
・数の大きい、小さいがよく分からない
・文章問題・図形・グラフが苦手、理解できない
など
3つの学習障害それぞれの特徴を紹介しましたが、その特徴は人それぞれであり、同じ障害に分類されていても、その中の全ての特徴があてはまるわけではありません。また、他の発達障害がある人は、その特徴が併合して出ることもあります。
5.学習障害(LD)の年齢ごとの特徴
学習障害は、本格的な学習に入る小学生頃まで判断が難しい障害です。子どもの成長速度はそれぞれ個々によって違います。障害か何かかと不安に思っても、ただ成長がゆっくりである可能性もあります。
学習障害の人の中にはADHDや自閉症などの他の発達障害の合併症状を持っている人も多く、その場合は、乳幼児期に特徴があらわれる場合もありますが、合併が無い場合は、この時期にはっきりと判断をするのは難しいです。
特に乳児期は学習障害の特徴は見分けにくいといえます。他の発達障害の特徴として、抱っこされるのを嫌がる、視線を合わせない、言葉を真似する行為が見られないなどの症状がみられるなど、他の発達障害の症状を目安にし、学習障害の確実な診断は学習を始める年齢以降にするしかありません。
では、年齢別に見られる学習障害の特徴をご紹介します。
1歳〜小学校就学
就学前なので学習障害の特徴はまだ現れにくいですが、この頃から子どもは言葉を話し始めたり、学習を始めます。少しずつ学習障害の子の多くが持つ特徴が見えてきます。
【幼児の学習障害の特徴】
・言葉、文字を覚えるのが遅い
・折り紙が折れない、ボタンがとめられないなど手先が不器用
・身体の使い方がぎこちない
など
7歳〜12歳(小学生)
小学生になると本格的に学習が始まりますので、特徴が現れやすくなります。勉強において特定の科目が苦手な場合や読み書きに困難がある場合、学習障害の可能性があります。同年代の子どもと比べて学習の習得が著しく遅く不安になった場合には、学校の先生や専門機関で相談してみることをおすすめします。
【小学生の学習障害の特徴】
・授業を真面目に聞いていても勉強が苦手、ついていけない
など
■読字障害
・ひらがな・漢字が読めない
・たどり読み・推測読みになってしまう
・行を飛ばして読んでしまう
・文章を読むのを嫌がる
など
■書字障害
・うまく文字を書くことができない(線を抜かしたり、鏡文字を書いてしまう)
・板書ができない、時間がかかる
・行やマス目からのはみ出しが大きい
・文字を書くのを嫌がる
など
■算数障害
・数が数えられない、とばして数えてしまう
・時計が読めない、時間が分からない
・計算ができない、嫌がる
・筆算をするときに数字がずれて間違えてしまう
など
13歳〜18歳(中学生・高校生)
中高生になるとはっきりと学習能力の偏りが見えてきます。何かの能力が極端に低い場合には、単なるなまけや得意・不得意だとは判断せず、学習障害である可能性も考えましょう。英語の学習が始まると、国語にはあまり不自由しなかった子どもも、英単語の読み書きなどに極端に困難さを感じる場合もあります。
【中高生の学習障害の特徴】
■読字障害
・小学生で習うような漢字を読めない
・英語の単語が読めない
など
■書字障害
・卒業作文のような長い文章が書けない
・英単語が書けない
など
■算数障害
・文章問題が解けない
・図形問題が解けない
など
これらの特徴も、発達障害の合併症として現れることもあります。
19歳〜の成人期
最近では、大人になってから学習障害だと診断される人も少なくありません。もし大人になってから様々な学習困難に直面したら、学生時代や子どもの頃を振り返ってみましょう。そして、学習障害と疑われる特徴があった場合には、一度、発達障害者支援センターなど、専門機関に相談してみるとよいでしょう。また、学習障害以外の発達障害との合併症を持っている可能性も考えられますので、早めに診断を受けに行きましょう。
【成人の学習障害の特徴】
・上司の注意を聞いてもうまく理解できず同じ失敗をする
・電話で聞きながらメモを取れない
・話がうまくまとめられず企画案を作成できない
・集団で指示されるのが苦手で会議で辛い思いをする
・レポートが書けない
・お釣りの計算や金銭管理ができない など
6.学習障害(LD)の診断方法は?
医療機関での診断は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』の診断基準に基づいて診断されます。医療機関では、「脳の異常はないか、知的な部分に障害がないか、困難な能力に偏りがないか」を調べます。
判断基準をもとに心理専門家など複数の専門家が慎重に判断してくれます。この診断が出た上で、「読字障害」「書字障害」「算数障害」のうち、どれが強いかが特定されます。
診断の流れは、医療機関などによっても異なりますが、一般的にはまず問診で現在の症状や困りごと、赤ちゃんの時から今までの生育・養育歴、既往症や家族歴などを調べていきます。脳波検査、頭部のCT、MRIなどでてんかんや脳の器質的な病気といった異常がないかを検査します。そして知能検査や認知能力検査などの心理検査を行います。
知能検査で代表的な「WISC-Ⅳ」では、本人のもつIQ水準をチェックし、言語理解、知覚推理などを検査します。
認知能力検査では日常生活や学校で習得できた知識や情報を認知的に処理する能力を調べ、認知処理能力と習得度を比較できる「KABC-Ⅱ」などを行います。
これらの様々な情報を総合的に見て、学習障害であるかの判断をします。また、こうした過程でADHDや高機能広汎性発達障害などが合併していないかの確認もします。
学習障害は専門家でさえも判断するのが難しい障害です。自己判断は避けて、まずは専門家に相談をしてみましょう。
また、障害だとわかりにくいため、周りから理解も得られず、本人がつらい思いをしているケースも多いです。難しい場合もありますが、できるだけ早期に、小さい頃から学習障害に対する教育方法や療育などの対処法を始めると、その後の発育に大きな違いがみられます。
いきなり専門の医療機関に行くのはちょっと…といった場合には、まずは身近な専門機関の相談窓口で相談するようにしましょう。発達障害の疑いがある場合には専門医を紹介してくれます。
子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。
【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター
・児童発達支援事業所
・発達障害者支援センター
など
【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業・生活支援センター
・相談支援事業所
など
7.まとめ
特異的発達障害の一つ、学習障害(LD)についてまとめました。
- 学習障害(LD)とは、知的発達にこそ遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の6つの能力のうち、いずれかまたは複数のものが著しく劣っている発達障害のこと
- 「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」6つの能力の全てが著しく劣っているというわけではなく、一部の能力だけに困難がある場合が多い
- 学習障害はADHDや高機能広汎性発達障害などが合併していることもある
- 学習障害の種類は、「読字障害(ディスレクシア)」「書字表出障害(ディスグラフィア)」「算数障害(ディスカリキュリア)」の3つがある
- 学習障害は、本格的な学習に入る小学生頃まで判断が難しい
- 医療機関での診断は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』の診断基準に基づいて診断される
- 学習障害は専門家でさえも判断するのが難しい障害なので、自己判断は避けてまずは専門家に相談をするとよい
学習障害は軽度、重度によって発見時期が異なり、さらに軽度な場合は本人や周りが気づかずに成長する場合も少なくはありません。知能には問題がなく、学習面である「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」といったある特定の能力の困難を「苦手な分野」と判断されてしまうため、発見しづらい障害です。
また、学習障害の症状は人それぞれ。学習障害のある人の中でも文章を構成するのが得意な人もいれば、算数が得意な人もいます。早期発見し、小さい頃から学習障害に対する教育方法や療育などの対処法を始めると、その後の発育も大きく影響します。
なにか気になったり不安に感じた場合は、医療機関や身近な専門機関の相談窓口で相談するようにしましょう。