普段いやなことや悲しいことがあると、気分が沈んだりやる気がなくなったりすることは誰にでもありますが、うつ病は、日常で感じる一時的な気分の落ち込みなどではありません。
言葉では表現しようがないほどつらい沈んだ気分または興味・喜びの喪失が、ほとんど一日中ほぼ毎日、2週間以上続き、仕事や日常生活の困りごとが出てきてしまう状態となります。
うつ病の患者数は近年増加傾向にあり、日本においては100万人を超えると報告されています。また、生涯でうつ病となる確率は3～7%ほどであり、誰でもかかる可能性のある病気です。
1.うつ病とは？
うつ病は、一言で説明しにくい病気ですが、脳のエネルギーが欠乏した状態であり、それによって憂うつな気分や食欲、睡眠欲、性欲などのさまざまな意欲の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴うこともある病気です。
エネルギーの欠乏により、脳というシステム全体のトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。
私たちには自然治癒力という素晴らしい機能が備わっていて、通常はさまざまな不具合を回復へ導いてくれます。私たちは日常生活の中で、時折憂うつな気分を味わいます。不快な出来事によって食欲が落ちることもあります。
しかし、脳のエネルギーが欠乏していなければ、自然治癒力によって、時間の経過とともに元気になるのが通常です。時間の経過とともに改善しない、あるいは悪化する場合には生活への支障が大きくなり、「病気」・「うつ病」としてとらえることになります。
そのため、仕事・家事・勉強など本来の社会的機能がうまく働かなくなり、また人との交際や趣味など日常生活全般にも支障をきたすようになります。
2.うつ病の原因（要因）は？
うつ病を引き起こす原因というのはひとつではありません。非常につらい出来事が発症のきっかけになることが多いのですが、それ以前にいくつかのことが重なっていることも珍しくありません。ですので、原因というより、要因というほうが考え方として当てはまるかと思います。
生活の中で起こるさまざまな要因が複雑に結びついて発症してしまうのです。
■環境要因
まず最もきっかけとなりやすい「環境要因」ですが、大切な人（家族や親しい人）の死や離別、大切なものを失う（仕事や財産、健康なども含む）、人間関係のトラブル、家庭内のトラブル、職場や家庭での役割の変化（昇格、降格、結婚、妊娠など）などが要因となります。こうして見るだけでもさまざまな出来事が要因となりうることが分かります。
■性格傾向
また「性格傾向」も発症要因のひとつです。義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、凝り性、常に他人への配慮を重視し関係を保とうとする性格の持ち主は、うつ病になりやすい傾向にあります。努力の成果が伴っているうちはエネルギーの回復もみられますが、成果が出せない状況が生じたり、エネルギーの枯渇が起これば発症の危険が高まります。
■遺伝的要因・慢性的な身体疾患
「遺伝的要因」、「慢性的な身体疾患」も発症要因のひとつです。 これらの要因によってうつ病を発症している時、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという考え方が最近の研究では一致してきています。
3.うつ病の症状
うつ病は、脳の働きに何らかの問題が起きた状態であると考えられています。
実際、日本ではまだまだうつ病への理解が足りておらず、とくに会社などでは「あいつはやる気、気力が足りない」「気持ちが弱い」と思われてしまいがちですが気力で解決できるものではありません。うつ病は、治療が必要な病気なのです。
うつ病の症状には、抑うつ気分、興味または喜びの喪失、意欲の低下・おっくう感などの“こころの症状”があります。
しかし、うつ病はこころだけではなく、いろいろな“からだの症状”があらわれることもわかっています。
こころの症状
- 抑うつ気分
- 不安やあせりが常にある
- 遠くへ行きたい、消えてしまいたいと考える
- 興味または喜びの喪失
- 意欲の低下・おっくう感
- 自分を責める
- 会話や本などの内容が頭に入ってこない
など
からだの症状
- 睡眠障害
- 食欲がわかなくなる
- 疲労感・倦怠感が抜けない
- 動悸・息苦しさ・口が渇くなど
- からだの重さや痛み
など
うつ病の“からだの症状”には、睡眠障害、疲労感・倦怠感、食欲の減退、動悸・息苦しさ・口が渇くなど、さまざまな症状があるといわれています。また、頭や肩、腰などの「重さや痛み」が、うつ病にともなうことがあるとも考えられています。
4.うつ病はどんな人がなりやすいの？
うつになりやすい人の性格の特徴としては、真面目・責任感が強い・完ぺき主義・人からの評価が高く・道徳観が強い人などに多いといわれています。
人からの頼みを断れずに、たくさんの仕事をかかえ込んでしまったり、柔軟に臨機応変な対応が出来ずに自分を追い込んでしまったりする傾向にあります。結局は、ストレスをため込んでしまって、こころのバランスを崩してしまうこともあるようです。
しかし、これらの特徴がなくてもうつ病になることはありますので、自分は楽天的だからうつ病にはならないというわけではありません。誰でもかかる可能性のある病気です。
5.うつ病の症状セルフチェックシート
うつ病の症状診断チェックシートで自分の状態を簡単に把握できたり、医療機関を受診する際に現在の症状を記録して持っていくと、診察の参考にすることができます。
ただ、診断結果をあらわすものではないので、このシートだけで自己判断はしないようにしましょう。
チェックシートはこちら：
うつ病の症状チェックシート
6.うつ病の診断方法は？
うつ病は、主に精神科や精神神経科といった医療機関で受診ができます。
また、内科でも受診ができます。うつ病は体の症状もあるので、それが別の病気によるものではないかを検査し、その結果、うつ病と診断されればそこで治療を始めたり、精神科を紹介してくれることもあります。
最近はこれら以外にも、メンタルヘルス科やメンタルクリニックなどの医療機関でも受診することができます。
どの診療科を受けていいか、看板などの表記からだけで判断しにくい場合は、直接その医療機関に電話して確かめるか、インターネットなどで調べるとよいでしょう。
7.うつ病の治療法は？
うつ病の治療には「休養」、「薬物療法」、「精神療法・カウンセリング」という大きな三本柱があります。
休養
うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものですので、使いすぎてしまった脳をしっかり休ませるということがうつ病の治療の基本です。仕事量・就業時間を軽減する、残業をしないというレベルから、仕事を休んで療養する、というレベルまでさまざまです。自宅療養をしていても家族への後ろめたさで落ち着かないというような場合には、軽症であっても一時的に入院するのがよいこともあります。
薬物療法
治療には「休養」が何よりも不可欠ですが、苦痛な症状により休養が十分に取れないことがあります。また、脳の機能的不調を改善し、症状を軽減するためにも薬物療法が行われます。
うつ病には、「抗うつ薬」という種類のくすりが有効であると考えられています。抗うつ薬は即効性のある薬ではないため、効果が現れるまでに少し時間がかかります。効果が出てくるまでにおよそ2週間くらいかかります。すぐに効果が現れないからといって服薬を中断してしまったりせずに、主治医の指示に沿って一定期間継続することが大切です。
精神療法・カウンセリング
うつ病を引き起こす原因はひとつではないので、休養と薬物療法のみでは治療できません。精神療法・カウンセリングは主に再発予防という観点が中心となります。同じような状況の中で、うつ病が再燃・再発しないように、ご自身の思考パターン・行動パターンを見直すということになります。
精神療法・カウンセリングの中には「認知行動療法」、「森田療法」、「内観療法」などさまざまな治療法があります。重要なこととして、精神療法・カウンセリングは心の専門家が一方的に行うものではなく、本人が専門家とともに考えていくという自主性が必須です。
8.うつ病の予後
うつ病は治療を始めればすぐに治療が終わるというものではありません。焦って治せるものでもなく、ある程度の期間が必要になります。 治っていく経過も、良くなったり、悪くなったり多少安定しない期間となりますが、階段をゆっくりと1段ずつ上るように改善していきます。
その治療の期間は、急性期・回復期・再発予防期と大きく3つの期間に分かれると考えられます。急性期にいちばん重視すべきなのが休養、回復期は薬物療法、再発予防期は精神療法・カウンセリングとなります。つまり、それぞれの期間の重点は治療の3本柱にも相当すると考えてよいでしょう。
急性期・回復期・再発予防期の3つの期間がそれぞれどれくらいの時間が必要かは、状況によって幅があります。
典型的なうつ病の場合は急性期が1～3か月、回復期が4～6か月、再発予防期が1年以上、というのが大まかな目安となります。もちろん軽症で早期に治療を開始した場合には、より早く再発予防期に移行することが可能となりますので、早期に対応することはとても重要であること変わりありません。
また、これはとても重要なことですが、回復したと思ってもすぐに薬は止めないようにしましょう。回復期の途中で自己判断で薬を止めてしまう方が珍しくなく、その結果再発してしまうことがよくあります。
薬を減らしていくタイミングは主治医の先生によく相談することが大切です。
9.まとめ
ストレス社会を生きる現代ではとくに誰でもかかる可能性のある病気、うつ病についてまとめました。
- うつ病は、憂うつな気分や食欲、睡眠欲、性欲などのさまざまな意欲の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴うこともある病気
- うつ病を引き起こす原因というのはひとつではなく、「環境要因」「性格傾向」「遺伝的要因」、「慢性的な身体疾患」などが発症要因となっている
- うつ病の症状には、抑うつ気分、興味または喜びの喪失、意欲の低下・おっくう感などの“こころの症状”があるが、いろいろな“からだの症状”もあらわれる
- うつになりやすい人は、真面目・責任感が強い・完ぺき主義・人からの評価が高く・道徳観が強い人などといった性格の特徴がある
- うつ病は主に精神科や精神神経科といった医療機関で受診ができる
- うつ病は「休養」、「薬物療法」、「精神療法・カウンセリング」という大きな三本柱で治療していく
- うつ病は焦って治せるものでもなく、ある程度の期間が必要になるので、治し切るためにも主治医の先生によく相談すること
うつ病の症状はさまざまで、こころの症状だけではなく、からだの症状があらわれる場合があります。治療では、それらの症状を取り除き、病気になる前の通常の生活に戻っていくことを目指していきます。
しかし、すべての症状を取りきらず、どれかを残したままにしてしまうと、うつ病が悪化する・再発するおそれも出てきます。うつ病は、心と体の両方に目を向けて、焦らずに一歩一歩治療を進めていくことが大切です。