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増加する大人の発達障害|特徴や原因、診断方法、症状への対策は?

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日常生活や仕事をしていく中で違和感や困難を感じ、「自分って発達障害?」という悩みが出てくる人は少なくありません。その悩みを大人になってから抱え始める人も最近は増加しています。

大人になってから発達障害と診断された時に思い悩んだり、自分自身を否定してしまう方もいますが、障害の特性を理解し、対応していくことで、発達障害を自身の「人間らしさ」としてアイデンティティにすることができます。

ここではそんな大人の発達障害の特徴・原因から診断方法、また発達障害の診断を受けた時にどのように向き合ってどのように対策すると良いかを紹介していきます。

 

大人の発達障害とは

大人の発達障害とは、生まれもった発達上の特性があることで、仕事や日常生活に困難をきたしている状態のこと。こうした特性がある人たちは、障害とは気づかれにくく、必要なサポートを受けられずに困っていることがあります。

これらの特性をどうにかしようとしてもなかなか状況が改善されず、自分自身を責めたり、本人が怠けている、悪気があってやっていると誤解されたり、親の育て方のせいといった非難を浴びるような状況になりがちです。

しかし、こうした問題は、本人の努力不足や家族、家庭環境のせいではなく、脳の発達特性によるものであると考えられます。

 

増加する大人の発達障害

「発達障害」という言葉は、2005年に発達障害者支援法が施行されてから世に広まり、その後2010年の障害者独立支援法の改訂、そして翌年2011年の障害者基本法の改訂の中で「発達障害」が明記されるようになりました。

これによって、医療や福祉、教育の分野では発達障害に対する理解が広がりましたが、社会全体では発達障害に対して十分な知識を持っていたり、興味を持っている人というのは多くはありません。

それは「発達障害」は幅が広すぎて理解がしにくいということや、見た目にはわかりにくいが故に本人が抱える課題が難しいということが背景にあるでしょう。

また、発達障害の特徴があるにしても、どこからを障害と捉えて良いものか線引きが難しく、それ以前に周囲も本人も発達障害に気づいていないということも珍しいことではありません。

義務教育では学習面行動面から、ADHDやLDに関しては気づかれることが多く、学習に問題のない生徒の場合は、特別なことや言語能力の遅れ等がなければ、発達障害だとしてもそのまま見過ごされてしまうのではないかと思います。

 

大人の発達障害の特徴(症状)

大人の発達障害といっても、子どもの発達障害の特徴そのものと変わりはありません。ただ、大人の場合は自立した社会生活を営む中で要求されるレベルが高くなるので、問題が大きくなりがちです。

自閉スペクトラム症の場合、コミュニケーションを取ることが苦手なため、周囲から誤解されがちで、空気を読めないやつというレッテルを貼られてしまうこともあります。また、同じ習慣へのこだわりが強く、ちょっとした環境の変化や突然の変更に苦痛を感じてしまいます。自閉スペクトラム症は「自閉症」や「アスペルガー症候群」、「自閉性障害」、「広汎性発達障害」を含みます。

限局性学習症(学習障害)の場合、「読む」「書く」「計算する」が苦手なため、文章を読んでも正しく理解できなかったり、文字や文章に誤りが多かったり、正確に計算できなかったりします。

ADHDの場合は、「不注意」「多動性」「衝動性」といった症状が特徴としてみられます。この特徴は、大人になって、家庭や仕事の場面で責任が生じたり、職場で他人と接するなかで障害として気づかれる傾向があります。集中力がなく、最後まで仕事をやり遂げずに途中で投げ出してしまい、「仕事ができない人」とのレッテルを貼られてしまうこともあります。

また、相手の気持ちを考えず思ったことをすぐに口に出してしまう、会話で聞き役になれないなど、自分本位で共感性が乏しいとみられる行動をとってしまいます。

 

大人の発達障害の原因

発達障害の原因については、まだ完全には解明されていませんが、脳の機能の不具合によって引き起こされることがわかってきています。しかし、なぜ脳に不具合が起きるのかは不明な点が多いです。

家庭環境やしつけは原因にはならない

かつては発達障害の原因がよくわかっていなかったので家庭環境や親の愛情不足の問題だと言われてきました。

しかしその後の研究によって、発達障害は脳の機能の不具合から起こる生まれつきの障害であり、家庭環境やしつけの問題ではないことがわかってきました。不具合が起こる原因についてはまだ不明な点が多いのです。

原因は生まれつきの脳の機能障害

発達障害には、脳の前頭葉や間脳、海馬、扁桃体などの機能の低下が関係していると言われています。

例えばADHDの場合は、前頭葉の前頭前野の働きが弱いため、自分の行動・感情がうまくコントロールできなくなると考えられています。

また、アスペルガー症候群や自閉症の場合も、何らかの原因で脳の機能に障害が起き、脳と体の情報のやりとりがうまくいかなくなって起こると考えられています。

 

仕事・職場での変化は大きな影響を与える

発達障害の傾向がある人でも、仕事もプライベートもうまくいって何の問題もなく活躍している人は数え切れないほどたくさんいます。発達障害だから必ず困難があるというわけでもないのです。とはいえ、発達障害の傾向があると感覚過敏や体力の問題から、働く環境・時間・人間関係などから影響を受けやすい人は多くいます。

環境の変化への社会適応がうまくいかないことから、不安やストレスが積り、鬱状態になってしまうなどの二次障害を抱える人が多いと言われています。

発達障害の方で、今まで一つの企業に長く務めることができていたとしても、ちょっとした環境の変化が大きく影響して、長く続いていた仕事をその後続けられなくなってしまい、結果辞めてしまうという方も非常に多くいます。その変化というのは上司が代わる、自身の人事異動、担当替えなど、企業に務める人にとっては当たり前と言える変化が多いかもしれません。

現代社会では発達障害の方に限らず誰もが変化からの不安やストレスにさらされる中で働いていると言えるので、もちろん発達障害ではない方も変化についていけなかったりしますが、発達障害のある方は変化への対応は特に苦手なために、変化に対応できず仕事を辞めてしまうことが多いのです。

 

仕事の向き不向き

職場での困りごとを軽減するためには、自分にある障害の特性を理解して、自分の能力を最大限に発揮できる職種を選択することが大切です。

例えばADHDの人は、長時間の集中が必要な仕事や、計画性が重要な仕事、単調な流れ作業などはあまり得意ではないかもしれません。しかし一方で、ADHDの人には行動力や発想力に優れた面があるため、ひらめきが必要な職種には適性がある可能性があります。

もちろん個人差というものがありますが、ADHDの人が向いている仕事には、
起業家、営業職、プロデューサー、音楽家、ゲームソフトやコンピューターソフトの制作・開発、その他クリエイターなど。
向いていない仕事には、
乗り物の運転士、事務職、経理職、検品作業、校正作業などがあります。

 

大人の発達障害の診断方法

日常生活や仕事の中で、何か問題が起きている、または起きやすいと感じている場合には、診断を受けましょう。

症状チェックリストで自己診断

発達障害を疑ったり、少しでも気になった方は以下の《A》と《B》それぞれのチェックリストで自己診断してみましょう。まずは自分に当てはまるものにチェックしてみてください。

 

《A》
□何かをする時は誰かとやるよりも一人でやるほうがいい
□同じやり方を繰り返し用いることが好き
□何かを想像する時、容易にイメージを思い浮かべることができる
□自分では丁寧に話したつもりでも、話し方が失礼だと周囲に注意されることがある
□他のことが全く気にならなくなるくらい、何かに没頭してしまうことがある
□周囲が気がつかないような小さな物音に気がつくことがある
□車のナンバーや時刻表の数字など、特に意味のない情報に注目することがある
□相手の顔を見てもその人の考えや感じていることがわからない
□他の人がどう感じるかを想像するのが苦手
□他の人の考えを理解することが苦手

 

《B》
□物事を行うにあたり、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことがよくある
□計画性を要する作業を行う際に、作業を順序立てるのが困難だったことがよくある
□約束や、しなければならない用事を忘れたことがよくある
□じっくり考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることがよくある
□長時間座っていなければならないときにそわそわしてしまうことがよくある
□何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることがよくある
□つまらない仕事や難しい仕事をする際に、不注意な間違いをすることがよくある
□直接話しかけられているのに、話に注意を払うことが困難なことがよくある
□家や職場に物を忘れたり、どこに置いたかわからなくなって探すのに苦労したことがよくある
□外からの刺激や雑音で気が散ってしまうことがよくある

引用元:「大人の発達障害」を疑ったら試したい20のチェックリスト

いかがでしたか。それぞれのチェックリストの当てはまった数を集計してください。

このチェックテストは、《A》で半分以上あてはまるとアスペルガー症候群、《B》で半分以上あてはまるとADHDの疑いがあると言われています。

思った以上にチェックがついた人も悲観的にならないでください。人は誰でも、どちらかの特性を持っているものなのです。アスペルガー症候群、ADHDのチェックリストで数が多く当てはまったからといっても、今まであなたの生活の中で不自由を感じることがなければ全く問題はありません。

自己判断せずに病院で診断・治療を

発達障害を疑ったり、不安に感じるようでしたら、自己診断で完結せずに病院に行って診断してもらうことを勧めます。精神科または心療内科がよいでしょう。

早く診断を受けて治療すれば、症状や問題が解決に向かう場合も少なくありません。発達障害か否かの判断は専門的な知識を有する医師などの治療者に任せるしかほかなく、様々な医学的検査も必要になります。

無駄な時間や労力を費やさないためにも、自分は発達障害ではないかと悩んでいる、もしくは上司や同僚などから発達障害を疑われている場合には、自己判断せずに精神科または心療内科を受診しましょう。

治療では、薬を使わない心理社会的治療、薬を使う薬物療法が行われます。

大人になるまで治療を受けず周囲の理解がない場合は、どれだけ注意していてもミスを繰り返してしまう事で周りの評価が下がり、自分は能力がない人間だと思ってしまいがちです。そして、思うようにいかない日々を過ごすうちに、気分が落ち込んだり、能力以下の自己評価をしてしまいます。

診断を受けることは社会的なサポートを受ける第一歩。自分の特性を理解し、周囲に理解してもらい、生活を見直すことで悪循環から抜け出し、自分の個性に光をあてていくことができます。

 

大人になってから発達障害と診断される人

成人になってから自身の持つ特性に気づく方はとても多く、発達障害を持った方で就職で悩む方のほとんどが大人になってから自覚するそうです。

そういった方々の多くは、ADHDやLDよりもアスペルガー症候群と診断されます。中にはADHDとアスペルガー症候群の両方が合併する混合型も多くいると言われています。

実は高学歴で言語能力の高い人も多く、そのため義務教育期間、高校、大学と自分の持つ発達障害に気づくことなく人生を歩んできた方が多いです。

そういった方々は、就職活動から悩みが増えることも多いでしょう。就職活動を始めても、筆記試験は合格しても面接がうまくいかない…。どの企業に応募すればよいのか決められない…。そもそもどのように活動を始めればよいのかわからない…。

言語能力に問題のない方は、合格して企業に入社したとしても、周囲の人と人間関係を築くことができず、孤立してしまい、仕事を辞めてしまうといったケースも多々あります。

発達障害の方の割合の測定が難しいことに変わりはありませんが、「発達障害」というものが広く知られるようになり、そして自分もそうなのではないかと不安になった方が診察を受けて、発達障害と診断される人が増えてきたのかもしれません。

 

大人の発達障害と診断されてからの変化

実際に、発達障害の診断を受けた方は「ショックだった」「自分が発達障害なんて信じられない」という方もいれば、「今まで周りとうまくいかずに違和感があったので腑に落ちた」「人間関係を構築するのが苦手と感じていたので理解できた」という方もいます。

ただ、発達障害ということがわかったからといって、悲観することはありません。仕事やプライベートでうまくいっている時は特別問題を感じる機会はなく、何かしらの課題に気づくといったことはないでしょう。

環境に恵まれていれば、自身の発達障害の特性に気づかないまま活躍する人、何も不自由に感じることなく過ごす方も多いと思います。また、課題に気づいたとしても、それを受け入れて対応していくことでしっかりと解決していくことができます。

 

診断を受けるメリット・デメリット

「自分は発達障害なのでは?」「もし発達障害と診断されたらどうしよう…」と悩む方はいるかと思います。人によって、捉え方によってはデメリットもありますが、基本的にはメリットが多く、その先の人生で待ち受ける困難に対して対応しやすくなるかと思いますので、診断は受けたほうがよいかと思います。

診断を受けるメリット

■自分の苦手な部分への対応ができる

まず、自分自身の特性を知ることで、自分が苦手な部分への対応ができ、工夫していくことができるようになります。今まで気づいていなかった自分の課題が見えてくれば、どのようにしていけばよいかという努力の方向性も見えてきます。

苦手なことに対して理解し、事前に準備をすることで、スムーズにうまくやり過ごせるようになります。ただし、自分にとって何が得意で何が不得意かを理解しそれに対する対応を考えるという作業は一人で行わずに、自分に親身になってくれる人と考えましょう。

大切なことは、得意不得意を自覚して、セルフコントロールできるようになることです。

また、意外と知らない人が多いのですが、発達障害のある人の中には、体力のない人が比較的多く、自身の体調を把握しにくいと言われています。診断によって自分の発達障害を理解し、自分の体力や能力のことを知ることで、体調の悪化や何かしらの失敗を未然に防ぐことができるかもしれません。

自分でできる事前予防により、職場などでのストレス軽減、不安軽減、失敗の回避にも繋がるのです。

 

■周囲からの配慮を得られる

次に、周囲からの配慮やサポートを受けやすい、また周囲に依頼しやすいというメリットがあります。

自分の特性を理解することで支援を求めやすくなります。例えば、周囲に「口頭の支持よりテキスト等の支持のほうが理解しやすい」と支援を求めることができます。

これは職場での具体的な対応策を得ることができますが、それよりも大きなメリットとして、周囲に理解者がいることで自分自身の安心に繋がり、気持ちが安定するので前向きに行動ができるようになるということがあります。

診断した医師や友人などしか理解者がいなかったところから、上司・同僚などの職場にまで理解者が広がることで、今までと比べ物にならないくらい安心して働くことができ、ストレスや不安がかなり軽減されるでしょう。ただ、周囲からの配慮が欲しいのであれば、それを周囲に伝えないとわかりません。

自分自身でどうしてもうまく伝えられない場合は、支援者・理解者に相談して代わりに伝えてもらってもよいでしょう。

 

■二次障害への対応ができる

発達障害から起こるうつ症状などの二次障害に対して、適切な治療が必要となります。人によって状況は様々ですが、薬を処方されることで状態が改善する人もいます。

しかし、アスペルガー症候群を含む自閉症を持つ人には、体質的に薬に敏感な人もいます。それによって不調になっているのに薬を次々に増やされて、より不安定になってしまうということにならないように、ちゃんとした医師に出会って、適切な治療をうけることが重要です。

そしてその前に自身の発達障害の特性について理解しておくことが必要です。

人によっては、ごく僅かな薬の服用で状態が改善され、快適な人生を送れるようになった人もいます。

 

診断によるデメリット

発達障害の診断を受けて、発達障害の特性を意識しすぎるあまり、あれもこれも自分には出来ないと苦手さに意識がいってしまい、それまで普通にできていた仕事ができなくなってしまうということもありえます。

発達障害ですという診断に振り回されて、逆にパフォーマンスが落ちてしまったり、縮こまってしまうようなことがあれば、それは診断を受けたことによるデメリットと言えるでしょう。

しかし、診断に悲観することなく、発達障害の知識であったり、今の自分に必要な情報を取り入れて、周りからの支援を受けられるようになれば、それはメリットになるでしょう。安心して継続的に働き続けたり、ストレスのないプライベートを送るには、本人の心の安定が重要です。

まずは自分自身が特性を理解し、それを周囲にも理解してもらえるようにし、自分の特性に合う対処法を理解して身につけ、周囲からもサポートしてもらえるような環境を作っていくことが重要なのです。

 

発達障害は人間らしさ

発達障害のある人の特徴としてよく挙げられる、物忘れや記憶違いが多い、感情のコントロールができない、すぐに飽きてよそに関心がいってしまう、等々。これらの特性は、「人間が人間であることの特徴」であるとも言われています。

「人間らしさ」が周囲と比べてちょっとだけ極端に出ている状態が発達障害であるとも言えるのです。

ですから、発達障害の特性を治そうというのは、人間らしさを治そうということになり、自分の人間らしさを押し殺そうということにもなるので、必ず無理が生じてしまうのです。

治そうという意識から、極端な部分を少し緩めるにはどうすればよいか、特性によって失敗したりしてしまった時にはどのようにフォローすればよいかを考えて、自分に合うものを取り入れていくことが重要です。

 

仕事環境においても、特性と環境の相性は大事です。自分の価値を低く見てしまったり、苦手な部分にばかり目がいく人は悪循環にはまってしまいます。

苦手なことがあり、それができないとバレると責められる。
責められるのは嫌だ。
だから苦手なことを隠す。
隠していて相談もできないので、一人でやって失敗する。
自己評価が低くなる。
苦手なことがあることを認めたくないという気持ちが出てくる。
苦手なことを隠そうとする。
また失敗する。

という悪循環が生じます。この悪循環から脱出するには、自分の得意不得意を客観的に見られるようになることです。客観視して受け入れることによって、

苦手なことがある。
相談する。
周囲から支援を受ける。
良い結果に繋がる。
自信がつく。
自己肯定感を得ることができる。

という好循環を作り出すことができるのです。

 

まとめ

近年増加している大人の発達障害。思い悩む人も多く、悲観してしまうことも当然ではありますが、自分に親身になってくれる人と、自分の特性への対応を考えて「自分を上手に使う」ということを考えてみましょう。

周囲と少し違って見える部分は治さなければいけないところではなく、「人間らしさ」であり、オリジナリティの一つです。特性を押し殺して生活しようとするのではなく、問題となることに対しては対応策を考えて修正していき、仕事もプライベートもより輝いていただけたらと思います。

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