誰もが生きやすい世界を目指すメディア

それぞれ

コラム記事

発達障害者が取得できる障害者手帳|申請方法や就職への影響は?メリット・デメリットは?

更新日:

発達障害の方でも障害者手帳を申請・取得できます

過去には二次障害がないと受け入れられないことがありましたが、国の方針が明確になってからは二次障害がなくても発達障害の方の障害者手帳取得が急激に増えています。

今では障害者手帳は”障害者枠”での就職を目的に申請するケースが一般的ですが、取得するべきかしないべきか、取得前にはお悩みになるかと思います。

そんな方のために、障害者手帳の申請から取得までの流れや就職への影響、障害者手帳を取得するメリット・デメリットをご紹介します。

 

1.発達障害の方が取得できる障害者手帳

精神障害者保健福祉手帳と療育手帳

障害者手帳には3種類あり、それぞれ身体・知的・精神的な障害があることを証明するものです。

発達障害”専用”の障害者手帳があるわけではなく、知的障害のある場合は「療育手帳」であり、大人になって発達障害がわかった場合の多くは、精神的障害がある場合に交付される「精神障害者保健福祉手帳」となります。

障害手帳は発行されるのかされないのか不安になる方も多いですが、原則申請すれば取得できます。

 

2.発達障害の場合どうやって障害者手帳の申請をするの?

まずは発達障害を正確に判定してもらいましょう

手帳を申請するには、発達障害を正確に判定してもらうことが必要です。

発達障害を判定してもらうには一定期間続けて通院し、症状が続けて現れることを医師が確認する必要があります。障害者手帳の規則では、その一定期間は半年以上を指します。つまり障害者手帳の申請には、初診から6ヶ月以上経過している必要があります

申請書を提出する先はお近くの自治体です。提出した書類は各都道府県の精神保健福祉センターに送られ判定が行われます。判定の要素は、

■どんな症状か
■仕事や日常生活の中でどんな困難があるか
■総合的にどのくらいの障害の重さか

となっています。

精神障害者保健福祉手帳の申請

発達障害の方で知的障害のない方は「精神障害者保健福祉手帳」となります。精神障害者保健福祉手帳は3等級に分けられていて、障害が重い順に「1級」「2級」「3級」と認定されます。

  • 1級:精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能たらしめる程度のもの(おおむね障害年金1級に相当)
  • 2級:精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの(おおむね障害者年金2級に相当)
  • 3級:精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、または日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの(おおむね障害年金3級に相当)

精神障害者保健福祉手帳の対象者

対象となる方は精神疾患により日常生活への制約がある方です。いずれも各精神疾患の初診から6月以上経過していることが条件となります。対象となる疾患は以下を参照してください。

■発達障害
■総合失調症
■気分障害(うつ病など)
■てんかん
■薬物・アルコールの急性中毒または依存症
■高次脳機能障害
■ストレス関連障害等の精神疾患

精神障害者保健福祉手帳の取得の流れ

①精神科受診 初診から"6ヵ月後"に手帳申請ができます。申請を希望する場合は事前に主治医に相談しておくとスムーズに手続きできます。
②診断書作成 市区町村の窓口(障害福祉課など)で申請書と指定の診断書書式を受取、主治医に診断書作成を依頼します。
③申請 申請書に必要事項を記入し、診断書・証明写真・官製はがきを添えて市区町村の窓口に提出します。
④審査 通常2~3ヶ月で審査結果が通知されます。
⑤交付 交付されたら市区町村の窓口で手帳を受け取ります。

精神障害者保健福祉手帳には2年ごとの更新があります

「精神障害者保健福祉手帳」を交付されると、2年ごとに更新があります。精神障害は状況が良くなったり悪くなったりと変化することは普通にありますので、元々精神障害のある人向けのこの手帳は、2年に一度の確認が必要とされるわけです。

申請書や診断書を提出して、現在の障害の様子を改めて確認してもらい、再判定を受けるようにしましょう。

 

療育手帳の申請

発達障害の方で知的障害を合併している場合は、「療育手帳」となります。

知的障害と言うのは自治体によって異なりますがだいたいの基準はIQが70以下と考えてください。療育手帳も障害の重さによって等級が分かれています。
例)東京都の「愛の手帳」は1度:最重度、2度:重度、3度:中度、4度:軽度

また、知的障害は小さい頃にわかる場合が多いので、療育手帳は一般的には10歳くらいまでに取得しています。ただ、成人してから発達障害の診断を受けて療育手帳を取得したという人ももちろん見られます。手帳発行の基準や手続きは子どもの場合と変わりません。

療育手帳取得にはIQテストや面接が必要

「療育手帳」は障害福祉課などの市区町村の窓口か、もしくは直接都道府県の障害者福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)でIQテストや面接をして判定を受けます。判定には、幼いころの様子をよく知る家族の同行や、幼いころの様子がわかる学校の通知表などの資料の提出が求められることがあります。

判定から1~2か月で結果が届き、手帳が交付されます。手帳の更新があるかどうかや更新のタイミングは自治体によって大きく異なります。

療育手帳の取得の流れ

①申請 市区町村の窓口、または都道府県の障害福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)で申請・判定予約を行います。
②判定 都道府県の障害福祉センターなど(18歳未満は児童相談所)でIQテストや問診・面接を行います(2~3時間程度)。
③審査 通常1~2か月で判定結果が通知されます。
④交付 市区町村の窓口または郵送で手帳を受け取ります。

 

発達障害のある方への障害者手帳の発行基準

発達障害のある方への障害者手帳の発行基準は、実際のところ都道府県や政令指定都市ごとに異なることがあります

例えば、神奈川県は発達障害の診断があるIQ91以下の人には療育手帳が交付される”発達障害特例”がありますが、他の自治体では同じようなIQ76~90程度の知的境界域の人に療育手帳が交付されないこともあるようです。ただ、この場合には精神障害者保健福祉手帳が受け取れます。

自治体による判断のばらつきを改善しようという動きが行政の中でも出てきていますので、今後全国的に基準が統一される可能性もあるでしょう。

「発達障がい者に対する療育手帳の交付について(概要)」総務省

3.障害者手帳を使って障害者枠での就職

障害者手帳の申請は障害福祉課など市区町村の窓口で行います。申請してから判定結果が届くまでに2~3か月かかりますが、障害者枠の面接会や求人の中には申請書の控えがあれば応募できるところもあるので、手帳がまだ手に入っていなくても就職活動をスタートすることができます。

少しずつ就活を進めたい場合は、まずはハローワークの「障害のある方向け窓口」で障害者枠用の求職者登録をして、どんな求人があるか調べてみることをお勧めします

また障害者枠の就活では、自分の障害特性など一般枠とは違ったポイントを伝える必要が出てくるので、障害者枠用の応募書類をつくり始めたり面接練習をスタートしてもよいでしょう。

「障害のある求職者の方の窓口」ハローワーク

障害者手帳の種類による就活への影響

影響はないとは言えないのですが、すべての企業で影響があるとは言い切れません。

発達障害の場合に限ると、精神の手帳だから有利になる企業もありますし、例えば知的障害の人だけを雇っている企業の場合は、療育手帳ではないとそもそも書類選考を通りづらいということもあるでしょう。

求人票にはそのようなことは書かれていないので、応募する側は企業がどう考えているかわからず困ってしまうでしょう。ですので、ミスマッチを防ぐ対策としては、支援者に聞くということが最も手っ取り早いでしょう

例えば、ハローワークの障害のある人向け窓口や障害者の就労支援機関で応募を検討している企業にこれまでどんな人が就職しているか聞いてみると傾向がわかるかもしれないですし、発達障害の人の雇用実績がある企業の求人を紹介してもらうという方法もあります。

 

余裕を持って手帳の更新を

障害者枠で就活をしたり働いている人は、手帳の有効期限が切れないように気を付けてください。

「精神障害者保健福祉手帳」は有効期限の3か月前から更新の申請ができます。再判定が行われるため、新しい手帳を受け取るまでに1~2か月はかかりますので、期限ギリギリになってからではなく余裕を持って申請するとよいでしょう。

 

障害者手帳があっても一般枠で就職できる

まず障害者手帳の取得を迷っている方へ。発達障害の診断を受けたからといって障害者手帳を必ず申請しなくてはいけないということもありません。

障害者手帳はそもそも、「障害のある人が必要な支援を受けやすくするためにつくられた制度」だからです。こんなサービス・メリットを受けたいという時にはじめて申請を行えばよいのです。

そして、障害者手帳があることによって障害者枠でしか就職できないかというと、そうではありません。障害者手帳を申請し取得しても、利用しなかったり、雇用主に伝えなくても、問題にはならないのです。

障害者手帳を持っていても一般枠の求人を受けられることを知らない方は多くいます。実際に、企業で働いている障害者の方で障害者枠で働いている方は一部だけで、多くの人は会社には告げずに障害者手帳を保有しています。

 

4.障害者手帳を取得するメリット・デメリット

障害者手帳のメリット

障害者手帳があることで、国からサポートを得て、経済的負担を減らすことができます(障害者手帳の種類や等級によって、得られる控除や割引が異なる部分があります)。

また、障害者手帳を持つことで、障害に対して職場に配慮を求められる障害者枠の求人に応募することができます。

どの障害者手帳も共通するメリットは、所得税と住民税の控除があることです。

①所得税の控除
「身体障害者手帳の1級・2級」、「精神障害者保健福祉手帳1級」、「重度の知的障害者(療育手帳A)」と判定された方は、所得税の特別障害者控除の対象となり、所得控除は40万円になります。「身体障害者手帳3級から6級」、「精神障害者保健福祉手帳2級・3級」、「また中度・軽度の知的障害者(療育手帳B1・B2)」と判定された方は、27万円になります。

②住民税の控除
住民税も同様に控除があり、特別障害者控除は所得控除30万円で、それ以外の障害者控除は所得控除26万円です。

③失業保険の給付期間が150日以上に
自己都合による退職の場合、待機期間3ヶ月の給付制限期間が設けられ、給付日数も1年以上10年未満働いていた方は通常90日となります。

しかし、就職困難者に該当する障害者は給付制限期間がなく、最大360日の給付を受けることができます。
筆者の場合は勤続1年以上、45歳未満に該当し、300日の給付を受けました。

ほかにも公共・交通機関の割引や自動車税・自動車取得税の減免、携帯電話の使用料、テーマパークの入場料(一部)の割引など障害者割引があります。

精神障害者保健福祉手帳のメリット

精神障害者保健福祉手帳のメリットは、主に下記などがあります。

①相続税の障害者控除が得られる
相続によって払う税額を減免することができます。例えば、2級か3級であれば、(85歳に達するまでの年数)×10万円で、1級は、(85歳に達するまでの年数)×20万円の控除が得られます。

②贈与税が非課税になる
2級、3級は3000万円、1級は6000万円まで贈与税がかかりません。

③利子と預貯金の利息が非課税になる
公債の利子などや預貯金(350万円まで)に税金はかかりません。

④医療費の助成を受けることができる
自立支援医療(精神科の診療費が本人負担1割になる制度)は手帳がなくても適応されますが、自治体によっては障害者手帳保持者にはさらに「心身障害者医療費助成制度」などの名称で更に医療費を助成する制度があります。

療育手帳のメリット

療育手帳のメリットは、主に下記などがあります。

①保育・就学に関する補助が受けられる
療育手帳を持つ本人が幼稚園に通う場合、または家族に療育手帳を持つ人がいる場合に、保育料に対する補助である『私立幼稚園就園奨励費補助金』が割り増しになります。

手続きは幼稚園を通じて行い、保護者の所得による制限や、地域により異なる割引率が定められています。

また、特別支援学校の高等部の進学において療育手帳の取得が必要な場合もあります。障害判定や公立・私立により異なりますが、保育園入園の優先順位が高くなることもあります。

②特別児童扶養手当が受けられる
特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金です。20歳未満が対象となり、重度(A判定)では月約5万円、中度(B判定)では月約3万3千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

③障害基礎年金が受けられる
国民年金法で定められた障害者向けの年金制度で、20歳以上が対象です。年金事務所で申請を行います。重度(A判定)では月約8万1千円、中度(B判定)では月約6万5千円を受け取ることできます。

④障害児福祉手当が受けられる
特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金で、20歳未満でかつ自宅で介護することが条件になります。また保護者の収入により所得制限が設けられています。重度(A判定)の方に月約1万4千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

⑤特別障害者手当が受けられる
特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金で、20歳以上でかつ自宅で介護することが条件になります。障害児福祉手当と同じく所得制限があり、重度(A判定)で月約2万6千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

⑥医療費の助成が受けられる
障害判定により、障害者医療費助成制度の対象になります。事前に自治体の障害福祉担当の窓口で申請を行った上で、窓口での支払いのあとに支給申請を行います。

 

障害者手帳のデメリット

厚生労働省は、「手帳を持つことで不利益をこうむることはありません」との見解を明示しています。しかし、障害者手帳を持つことでのデメリットは心理的なもので「私は障害者である」ということを受け入れないといけないジレンマがあるかと思います。

手帳を取得して、ご本人の意志で障害をオープンにするには勇気が必要です。また、友人や職場の同僚などに偏見の目で見られることがあるかもしれません。

しかし前述の通り、障害者手帳を申請し取得しても、利用しなかったり、雇用主に伝えなくても、問題にはならないのです。手帳を持つことによるメリットを考えて、気持ちを切り替えましょう。

 

障害者手帳はいつでも返還が可能

障害者手帳を持つメリット・ニーズがなくなれば返還することもできます。「精神障害者保健福祉手帳」、「療育手帳」どちらも返還できます。ですので、例えば障害者枠で働いていたが一般枠の求人に応募して転職した時などに、障害者手帳はもういらないとなれば返還してよいのです。

まず新卒で働き始める時は障害者枠で数年働いて基本的なスキルを身に付け、仕事自体や社会人らしいコミュニケーションに慣れてから一般枠の求人に挑戦していくといったキャリアプランも考えられます。

自分の人生で必要な時期だけ手帳を持つという選択をすることができるのです

 

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。障害者手帳の申請から取得までの流れや就職への影響、障害者手帳を取得するメリット・デメリットをまとめてご紹介しました。

  • 発達障害の人が取得できる障害者手帳は「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」
  • 障害者手帳を申請するには、まず医師から発達障害を正確に判定してもらうことが必要
  • 障害者手帳の発行基準は、実際のところ都道府県や政令指定都市ごとに異なる
  • 障害者手帳の種類による就活の影響はないとは言えないが、手帳があっても一般枠でも就活ができる
  • 手帳を取得するメリット・デメリットを把握した上で、取得するかどうか医師やご家族の方とよく相談すること

発達障害でも障害者手帳を取得することにより、デメリットとなることもあるかもしれませんが、受けられるメリットはたくさんあります。障害者手帳を取得するとなったら、受けられる制度をうまく利用して社会生活や日常生活の困難を少しでも減らしていただけたらと思います。

-コラム記事

Copyright© それぞれ , 2025 All Rights Reserved.