アスペルガー症候群とは、知的障害を持ち合わせておらず、自閉症と似た部分がある疾病で、広汎(こうはん)性発達障害の一種。
発症率は男性の方が多く、自閉症よりも偶然発症する確率が高く、女性でも比較的発症されやすいといわれています。
本記事では、誰にでも起こり得るこのアスペルガー症候群の原因・症状、治療方法などについてご説明します。
1.アスペルガー症候群の主な症状・特徴
アスペルガー症候群の主な症状は大きく分けて3つあります。
アスペルガー症候群の主な3つの症状
①コミュニケーションの障害
②対人関係(社会性)の障害
③限定された物事へのこだわり・興味
アスペルガー症候群の主な特徴
アスペルガー症候群は、一見しただけでは気づきにくく本人も自覚していない場合もあります。
そんなアスペルガー症候群の特徴には、「場の空気を読んだり、場の空気に沿った対応が苦手」、「冗談が通じず、会話の行間や間を読むことが苦手」、「好きなことには集中してやり続ける、話し続ける」などがあります。
基本的には自分以外の人や物事に対してうまく共感できない、言い回しが不適切などのコミュニケーションにおける困難さが主な症状となります。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
アスペルガー症候群(AS)とは?症状・特徴・診断・治療法まとめ
2.アスペルガー症候群の原因は?
明確な原因や発症のメカニズムについてはいまだ解明されていませんが、アスペルガー症候群は自閉症によく似た症状が見られるため、自閉症の場合と同じく様々な要因が複雑に作用した結果、胎内での中枢神経系の発育時に何らかの問題が生じたのではないかと考えられています。
また、成長段階における環境が心に与える要因も大きく関わっているとされています。要因について、各々詳しくご紹介します。
■遺伝的要因
アスペルガー症候群の原因には、遺伝的な要素が大きく占めているとされています。アスペルガーの性質によって、周囲の人より特定の能力が秀でていたり、それによって社会的に活躍したりする人も多く見られます。アスペルガー症候群は比較的遺伝しやすい性質がありますが、人間が進化する上で、平均的な能力だけではなく、特出した分野の能力の進化を広げるためだとも考えられるでしょう。
■胎内での環境の要因
アスペルガー症候群の原因には、胎児の段階での胎内環境も関係しているとされています。ただ、該当するものに当てはまるからといって絶対的に発症するというものではありません。
胎児期に男性ホルモンを大量に浴びすぎると、アスペルガー症候群を含む自閉症傾向になりやすいことが判明されています。また、母親が男性ホルモンを分泌するのは、農薬やダイオキシンなどの環境ホルモンが影響しているともいわれています。
母親が妊娠中に、ヘルペス・ウィルス/風疹ウィルスに感染すると、胎児がアスペルガー症候群を含む自閉症になるリスクが高まると言われています。風疹ウィルスでは発症率が10%を超えるといわれています。
自己免疫とは、ウィルスの感染や風邪などで免疫系のコントロール機能が乱れ、本来守られるべき細胞まで攻撃する状態。母親や家族に、花粉症やアレルギー、膠原病、ぜんそく、インシュリン依存型糖尿病などの症状があると、その子どものアスペルガー症候群を含む自閉症の発症と、関係があることが判明しています。
そのため、胎児のときに自己免疫によって脳細胞を攻撃してしまうのではないかとも考えられています。
鉛などの重金属が水や食べ物を通して母体に取り入れられると、それが原因で胎児が自閉症傾向になりやすくなるといわれています。この説の根拠は、アスペルガー症候群を含む自閉症児の毛髪に、重金属が多く含まれているということです。
■成長時の心理的な要因
アスペルガー症候群は、前述の遺伝的要因と胎内での環境の要因にあてはまっても必ずアスペルガー症候群を発症するというわけではありません。
発症を決定づけるのは、出生後、大人になるまでの養育環境がどのようなものかということになります。
成長時に人とのコミュニケーションが密接でない環境で育つと人に共感できないなどのアスペルガーの症状が現れやすいことがわかっています。
3.アスペルガー症候群の発症時期・年齢ごとの特徴は?
アスペルガー症候群は、知的な遅れがなく見た目などからはわかりづらいため、気づくのがとても難しい障害。大人になって社会に出てから気づく、また大人になってからもその障害に気づかずに生活をしている人も少なくありません。
特に乳児の場合は症状が分かりやすく出てこないため、生後すぐに診断されるということはなく、またアスペルガー症候群の症状は他の発達障害の症状とも共通するものが多く、見分けが難しいこともあります。
これらのことから、アスペルガー症候群の発症時期・診断年齢は明確には分かりませんが、各年代によく見られる症状が障害に気づくきっかけにもなります。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
アスペルガー症候群(AS)とは?症状・特徴・診断時期や診断基準・治療法まとめ
4.アスペルガー症候群が遺伝する可能性は?
アスペルガー症候群は、一つの遺伝子の変異が発症につながる障害ではないと考えられています。
多数ある素因となる関連遺伝子の組み合わせや、相互の影響による多因子遺伝であるため、単純に親からの遺伝子が原因となって発現するということではありません。
また、遺伝子だけではなく、そのほかの環境的な要因が複雑に重なった場合に現れるため、親にアスペルガー症候群があるからといって100%子どもに遺伝するとは言えません。逆に、両親ともに定型発達の場合でも、アスペルガー症候群の子どもが生まれる場合もあるのです。
一方で双生児間や家族間研究も進み、遺伝子が近いほど、アスペルガー症候群が発現しやすいという研究報告もあります。
5.アスペルガー症候群の治療方法
アスペルガー症候群を完治させるような、根本的な原因をなくす治療法、治療薬はありません。
ですが、個々にあった環境や工夫の中で療育や支援を受けることで、より生きやすい生活を送ることが可能です。現在、心理療法やアスペルガー症候群のある人に並存しやすい易刺激性への薬物治療のほか、療育的アプローチ、保護者や周りの人が接する方法を学ぶペアレントトレーニング、過ごしやすい環境を整える環境調整などが一般的によく用いられます。
信頼できる医療機関や専門家とつながり、早期にサポートを行うことが重要です。
環境調整
この環境は、教育現場における物理的な環境のことです。例えば、集中することが難しい子の場合は、その子の机の周りに無駄な刺激物を置かないようにするなど教室の環境を調整します。
ソーシャルスキルトレーニング
通称「SST」。様々な特性を持つ本人が社会や生活において適切に行動できるようにロールプレイなどを行いトレーニングします。紙芝居や遊びを用いたシミュレーションなどを行います。
ペアレントトレーニング
「ペアレントトレーニング」とは、保護者が子どもに対して療育的な訓練を行えるようになるよう親向けにトレーニングをすることです。注意の仕方、アドバイスの仕方、褒め方などを学びます。
このような療育は、発達障害専門の病院や公立・民間の児童発達支援事業所などで学ぶことができます。このような場所に通うことによって、本人の良い部分を磨いていくことができます。
アスペルガー症候群の治療で大切なこと
アスペルガー症候群は知的な遅れがなく、言語発達が正常であるため、周囲のサポートをあまり協力的にしてもらえず、軽視されやすい傾向があります。しかし、対人関係のハンディキャップを埋め、持ち前の能力を発揮することができる環境づくりのためには、家族や周囲の理解とサポートが必要です。
また子どもの場合は、子どものわがままだと思って、子どもに対して頭ごなしに叱らないことも大切です。アスペルガー症候群がどのような病気なのかの理解を深め、家族や周囲の協力のもと、本人とともに乗り越える必要がある病気です。
6.様々な医療機関で受けられるアスペルガー症候群の診療
アスペルガー症候群の傾向があるかも?と思っても、いきなり医療機関を受診するのはハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、適切なサポートを受けなければ、本人にも周囲の人たちにも負担をかけてしまいがちです。アスペルガー症候群の対人関係のトラブルなどは、障害への理解がない状態ではなかなか修復が難しかったり、本人が自分を責めてしまったりなど、状況が悪化してしまう場合もあります。
専門機関への相談を事前に行うことで、状況が悪化してしまうようなことが起こらないようにできる限りのサポートを受けることができるかもしれません。
もしいきなりの医療機関に抵抗がある場合は、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのよいでしょう。早めに相談し、アスペルガー症候群に対して正しい知識を得るのは重要です。
家族で試行錯誤をして対処法を見つけていくよりも、専門機関に相談し色々な方法を教えてもらった方が、時間もかかりませんし、ストレスも少なくすみます。必要であれば医療機関を紹介してもらうこともできます。
子どもか大人かによって、行くべき機関が違うので、以下を参考にしてみてください。
【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター
・児童発達支援事業所
など
【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業・生活支援センター
・相談支援事業所
など
身近な相談センターに行って相談し、障害の疑いがある場合、診断を希望すればそこから専門医を紹介してもらえます。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。
診断を受けられれる医療機関としては、子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などです。大学病院や総合病院などにあります。
大人の場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科など専門の医療機関を受診することが一般的ですが、大人の発達障害を診断できる病院はまだ数が多くありません。
7.まとめ
本記事では、アスペルガー症候群の原因・症状、治療方法などについてまとめました。
- アスペルガー症候群の主な3つの症状は「コミュニケーションの障害」「対人関係(社会性)の障害」「限定された物事へのこだわり・興味」
- アスペルガー症候群の明確な原因は分かっていないが、遺伝的要因と胎内での環境の要因が関係し、また成長段階における環境の心理的要因も大きく関わっているとされている
- アスペルガー症候群の発症時期は明確にはわからず、また知的な遅れがなく見た目などからはわかりづらいため、気づくのがとても難しい
- アスペルガー症候群は各年代によく見られる症状を参考にして、気づくきっかけとするとよい
- アスペルガー症候群は単純に親からの遺伝子が原因となって発現するということではないが、遺伝的な要因も考えられている
- 薬や手術などでアスペルガー症候群を完全に治療することはできないが、困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、アスペルガー症候群の特徴を緩和する治療薬は存在する
- 治療で大切なことは、知的な遅れがなく言語発達が正常であるからといって家族や周囲がサポートすることを軽視せず、理解とサポートをしっかりとすること
- アスペルガー症候群は、大人の場合だと精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科などで、子どもの場合は小児科や児童精神科、小児神経科、発達外来などで診てもらえる
アスペルガー症候群は、原因や発症時期に関して明確にはわかっていません。また、完全に治療することはできないが、困難の乗り越え方を学ぶ教育・療育や、特徴を緩和する治療薬はあります。
身近な相談センターに行って相談し、専門医療機関で適切な対応・治療を受けられるようにしましょう。
そして、治療していく上で家族や周囲の人間は、知的な遅れがなく言語発達が正常であるからといってがサポートすることを軽視せず、理解とサポートをしっかりとすることが大切です。