アスペルガー症候群は、比較的最近になって認知され始めた発達障害です。言語障害や知的障害の症状はないので、周りからはなかなか理解してもらえない障害と言われています。
本記事では、アスペルガー症候群について、症状や特徴、年齢別の症状のあらわれ方や診断基準などについて詳しくお伝えします。
1.アスペルガー症候群(AS)とは?
アスペルガー症候群(AS)とは、対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、対人関係がうまくいきにくい障害で、知的障害や言葉の発達の遅れがないものを言います。
明確な原因はいまだにわかっていませんが、何らかの脳機能の障害と考えられています。
アスペルガー症候群は前述の通り、最近になってようやく少しずつ認知度が広まってきました。知的障害や言葉の発達の遅れがないことから、今までは障害だと気づかれずに本人が生きづらい思いをしたり、周りも理解に苦しんだりすることも少なくありませんでした。
もちろん、まだまだ認知していない人も多くいますので、そういった方々には理解されず、いまだに苦しんでいるアスペルガー症候群の人は多くいます。
アスペルガー症候群という障害が発症することは実は決して珍しいものではありません。約4000人に1人の割合で発症すると言われています。本人がアスペルガー症候群と気づかずに診断を受けていないケースなどを含めると、実際はもっと多いでしょう。
また、アスペルガー症候群は2013年に発行されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』においては、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の中にまとめられています。
2.アスペルガー症候群の定義は?
文部科学省は、アスペルガー症候群(AS)を以下のように定義しています。
アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に分類されるものである。
3.アスペルガー症候群の主な3つの症状
アスペルガー症候群の主な症状は大きく分けて3つあります。「コミュニケーションの障害」「対人関係(社会性)の障害」「限定された物事へのこだわり・興味」の3つです。
アスペルガー症候群の主な3つの症状
①コミュニケーションの障害
コミュニケーションの障害は、表面上は問題なく会話できるのですが、その会話の裏側や行間を読むことが苦手です。明確な言葉がないと理解がむずかしく、比喩表現などをそのままの意味で受け止めてしまう傾向があるため、人の言葉を勘違いしやすく、傷つきやすい面があります。
②対人関係(社会性)の障害
対人関係(社会性)の障害は、場の空気を読むことが苦手で、相手の気持ちを理解したり、相手の気持ちに寄り添った言動が苦手な傾向にあります。そのため、社会的なルールやその場の雰囲気を平気で無視をしたような言動になりがちで、対人関係を上手に築くことが難しいです。
③限定された物事へのこだわり・興味
限定された物事へのこだわり・興味は、いったん興味を持つと、周囲から見たら過剰といえるほど熱中します。法則性や規則性のあるものを好み、異常なほどのこだわりを見せることがあります。その法則や規則が崩れてしまうことを極端に嫌う傾向があります。一方、この特性は逆に強みとして活かすこともできます。
4.アスペルガー症候群の特徴は?
一見しただけではアスペルガー症候群は気づきにくく、本人も自覚していない場合もあります。アスペルガー症候群の人によく見られる10この特徴を紹介します。
②場の空気を読んだり、場の空気に沿った対応が苦手
③冗談が通じず、会話の行間や間を読むことが苦手
④曖昧なことを理解するのが苦手
⑤好きなことには集中してやり続ける、話し続ける
⑥スケジュールの管理が苦手
⑦自分が興味のないことは一切手を出そうとしない
⑧急な変更にうまく対応できず、騙されやすい
⑨名前を呼ばれないと自分だと気が付かない
⑩相手の気持ちに思いをめぐらすことができず、人を傷つけることを平気で言う
基本的には自分以外の人や物事に対してうまく共感できない、言い回しが不適切などのコミュニケーションにおける困難さが主な症状となります。こういったことから、最も苦労するのは人間関係でしょう。
一方で、一度興味を持った物事に対しては、異常なほどのこだわりや集中力、記憶力を発揮する場合もあります。
さらに、アスペルガー症候群だけではなく、ADHDなど、他の障害の症状を持ちあわせている場合も珍しくはありません。
5.アスペルガー症候群の診断時期・年齢は?
アスペルガー症候群は発達障害の中でも、知的な遅れがなく見た目などからはわかりづらいため、気づくのがとても難しい障害の一つです。
大人になって社会に出てから気づくことも多いといいますが、大人になってからもその障害に気づかずに生活をしている人も少なくないとも言われています。
乳児の場合は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達で、症状が分かりやすく出てこないため、生後すぐに診断されるということはありません。
また、アスペルガー症候群の症状は他の発達障害の症状とも共通するものが多く、見分けが難しいこともあります。
これらのことから、アスペルガー症候群の発症時期・診断年齢は明確には分かりませんが、各年代によく見られる症状を参考にして、総合的に確認すると気づくきっかけになるでしょう。
0〜1歳の乳児期に出る特徴
乳児期にはアスペルガー症候群の確定診断はほぼ出ません。ただし、のちにアスペルガー症候群と診断された人達の中には、乳児期に特徴的な行動を共通してとっていたことが多いです。ここでは、そうした乳児期の典型的な症状をご紹介します。
同年齢の子どもと比較して、下記のような傾向が見られる場合があります。
・目を合わせない
・笑わない
・音に敏感に反応する
・人見知りしない
・乳児がする指さしが見られない
・興味があるものに熱中する
など
1歳から小学校就学までの幼児期に出る特徴
周りの同年齢の子と比較して、下記のような傾向が見られる場合があります。
・かなりのマイペースで集団から孤立しやすい
・特定の順番や並び、場所などにこだわりを持つ
・相手の表情を読み取ることができない
・一人遊びに熱中する
・特定のものや知識を集めることを好む
・親がそばにいなくても平気
・一つ一つ説明しないと理解できない
・何度も説明しないと理解ができない
など
小学生の学童期に出る特徴
・得意科目と苦手科目の差が開きすぎる
・多動が目立ち、集中力がない
・規則や法則性に忠実
・行事や特別活動に参加できない
・好きなことには取り組むが、嫌いなことには拒否が多くなる
・相手の気持ちや意図が読み取れない
・周囲との強調が苦手
・会話が一方的で、相手がその話題に興味がなくても話し続ける
・国語のテストで登場人物の気持ちを問う問題が苦手
など
小学校卒業後の青年期以降に出る特徴
・集団行動が苦手で周りの輪を乱しがちになる
・規則正しい生活ができるが、イレギュラーに対応できない
・友達作りが苦手
・学校に行きたがらない
・自分の考えに固執する
・冗談や比喩、皮肉がわからない
など
また、思春期の頃などには、適応障害が強くなり、うつや不登校などの二次障害や合併症をきっかけに、アスペルガー症候群に気づくケースもあります。
大人になってからの診断については、本人が自覚したり、周囲からの指摘により気づいたりすることも多いです。
二次障害の症状
・周囲から浮いていることを自覚し、被害意識が強い
・劣等感が強い
・抑うつ的である
など
上記のような症状が顕著に見られ、家族が学校や医療機関、相談センターなどに相談し、アスペルガー症候群の診断につながることが多いです。
幼稚園や学校など、集団行動が始まる頃から、周りと比較されることで特徴が表れやすく、その頃の診断が多いとされています。
アスペルガー症候群の診断は、専門家が慎重に総合的に判断します。確定診断が1度の受診でされるようなことはなく、複数回の受診や様々な検査結果を総合して慎重に行われます。ですので、ネットなどに載っているチョックテストなどはやってみてもよいですが、それだけで自己診断してしまうようなことは避けましょう。
6.アスペルガー症候群の診断基準・診断方法は?
アスペルガー症候群の診断基準・診断方法
まず、アスペルガー症候群の医療機関での診断基準は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』によるものです。そして、診断基準に基づいたテスト、その人のライフスタイルや困難についての質疑応答など、しっかりと話を聞いた上で総合的に判断されます。
アスペルガー症候群の診断を受けられる医療機関としては、子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで、大人の場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科など専門の医療機関を受診することができます。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
アスペルガー症候群の診断基準や検査内容は?
7.アスペルガー症候群の治療法は?
アスペルガー症候群の根本的な原因をなくす治療法、治療薬はありませんが、個々にあった環境や工夫の中で療育や支援を受けることで、より生きやすい生活を送ることが可能です。
現在、心理療法や薬物治療のほか、療育的アプローチ、保護者や周りの人が接する方法を学ぶペアレントトレーニング、過ごしやすい環境を整える環境調整などが一般的によく用いられます。
詳しくはこちらのページをご覧ください:
アスペルガー症候群の原因は?治療方法はあるの?病院はどこにいけばいいの?
8.まとめ
本記事では、アスペルガー症候群(AS)はそもそもどういったものなのかを詳しくお伝えしました。
- アスペルガー症候群(AS)は対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、対人関係がうまくいきづらい障害で、知的障害や言葉の発達の遅れがないもの
- アスペルガー症候群の主な症状は大きく分けて「コミュニケーションの障害」「対人関係(社会性)の障害」「限定された物事へのこだわり・興味」の3つ
- 「場の空気を読んだり、場の空気に沿った対応が苦手」「冗談が通じず、会話の行間や間を読むことが苦手」などといった特徴から、人間関係に最も苦労する
- アスペルガー症候群の発症時期・診断年齢は明確にはわからないが、各年代によく見られる症状から気づくきっかけとなる
- アスペルガー症候群は、診断基準に基づいたテスト、質疑応答など、しっかりと話を聞いた上で総合的に判断される
- アスペルガー症候群の根本的な原因をなくす治療法・治療薬はないが、療育や支援を受けることでより生きやすい生活を送ることできる
アスペルガー症候群の3つの主な症状。その症状には個人差があります。早期にそれらの特性に気づき、一人一人に合った環境を作ったり、苦手なことの対応方法を工夫することで、逆に特性を強みとして活かすこともできます。
アスペルガー症候群だからといって、消極的にものごとを考えず、特性を活かせるような環境を本人と周囲の人で作っていくことで、生きていく上での困難さを解消し、"自分らしく生きる"ことができるでしょう。