気力では全くどうにもならないくらいに気持ちが沈んでつらい状態で、うつ病だと思いながらも、極端に調子がよくなって活発になる時期がある場合は、双極性障害(躁うつ病)かもしれません。
双極性障害では、ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態をくりかえします。躁状態になると、眠らなくても活発に活動する、次々にアイデアが浮かぶ、自分が偉大な人間だと感じられる、大きな買い物やギャンブルなどで散財するといったことがみられます。
本記事では、このあまり聞き馴染みがないかもしれません双極性障害の症状や原因、診断方法などについて詳しく解説していきます。
1.双極性障害(躁うつ病)とは?
双極性障害は気分が高まったり落ち込んだり、「躁状態」と「うつ状態」を繰り返す脳の病気です。激しい躁状態とうつ状態のある双極Ⅰ型と、軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態のある双極Ⅱ型があります。
「躁状態」では、気分が高ぶって、誰かれかまわず話しかけたり、まったく寝てないにもかかわらず動き回ったりと、活動的になります。また、ギャンブルに全財産をつぎ込んだり、いきなり高額のローンを組んで買い物をしたり、はたまた上司と大ゲンカして辞表を叩きつけたりするような社会的信用や財産、職を失ったりする激しい状態になることもあります。
いつもよりも妙に活動的で周りの人から「ちょっと元気すぎない?」と思われるような軽い状態は、「軽躁状態」と呼ばれます。
一方、「うつ状態」では、一日中憂鬱な気分で、眠れなくなったり、または逆に眠りすぎたりします。大好きな趣味や普段楽しみにしているテレビ番組にも関心がなくなったり、食欲が低下し、おっくうで身体を動かすことができないといった症状もみられます。
世界的には、双極性障害はおよそ100人に1人がかかるといわれています。日本では、500人に1人という調査結果がありますが、まだこうした研究が少なく、はっきりしたことはわかっていません。いずれにしても、決して珍しい病気ではないということはいえます。
また、かかりやすさに男女差はなく、20代から30代前後に発症することが多いとされていますが、中学生から老年期まで、幅広い年齢で発症する病気です。
I型とII型がある双極性障害
前述の通り、双極性障害にはI型とII型があります。II型の軽躁状態はI型の躁状態に比べて、症状が軽く、社会的な問題も少ないので、双極II型障害は双極I型障害よりも軽い病気だと思われがちですが、そうではありません。
II型はI型に比べてコントロールしにくく、うつ状態を再発しやすいといわれています。どちらもなるべく早く治療を開始することが大切です。
また、米国精神医学会の診断基準『DSM-5』(精神疾患の精神疾患の診断・統計マニュアル)では、双極性障害のI型とII型は躁状態・軽躁状態の継続期間や社会機能障害の程度によって以下のように区別されています。
- 躁状態が少なくとも7日間つづく場合はI型、軽躁状態が少なくとも4日間つづく場合はII型とする。
- II型の軽い躁状態では、社会生活の機能はあまりそこなわれないですむ。しかしI型の躁症状は、社会生活の機能を必ず障害し、問題になっていく。
2.双極性障害の原因は?
双極性障害の原因は明らかになっていません。しかし、うつ病と比較して遺伝的な要素の影響が大きいといわれています。また、多くの研究者からは遺伝的背景に加えて、性格や、過労、心理的葛藤、身体疾患、社会的要因などのストレスが加わって発症すると言われています。
このように遺伝的要因も高いと指摘されているとともに、併せて「環境」との関連が指摘されています。これら2つの要素が重なった結果として双極性障害が発症するという「ストレス脆弱性モデル」が主な原因として考えられています。
ストレス脆弱性モデルというのは、「その人の病気へのなりやすさ(脆弱性)と、病気の発症を促す要因(ストレス)の組み合わせにより、精神疾患は発症する」という仮説のことをいいます。
また双極性障害は、どんな性格の人でもなりうる病気です。
3.双極性障害の症状
躁状態(躁病エピソード)
双極Ⅰ型障害の躁状態では、ほとんど寝ることなく動き回り続け、家族や周囲の人に休む間もなくずっとしゃべり続け、周囲の人を疲労困ぱいさせてしまいます。仕事や勉強にはエネルギッシュに取り組むのは良いのですが、一つのことに対して集中できず、何ひとつ仕上げることができません。
また、高額な買い物をして何千万円という借金をつくってしまったり、法的な問題を引き起こしたりする場合もあります。無茶苦茶なことに次々と手を出してしまい、これまで築いてきた社会的信用を一気に失い、仕事を辞めなければならなくなることもしばしばあります。
また、自分には超能力があるといった妄想を持ってしまうこともあります。
軽躁状態(軽躁病エピソード)
双極II型障害の軽躁状態は、躁状態のように周囲に迷惑をかけることはありません。躁状態の症状が短期間かつ社会生活に支障を来さない程度に出現する状態です。
いつもとは人が変わったように元気で、短時間の睡眠でも平気で動き回り、明らかに「いつもと違うな」「ハイになってるな」というふうに見えます。いつもに比べて人間関係に積極的になりますが、少し行き過ぎという感じを受ける場合もあります。
躁状態と軽躁状態に共通していえることは、多くの場合、本人は自分の変化を自覚できないということです。大きなトラブルを起こしていながら、本人はほとんど困っておらず、いつもより調子がよいと感じており、周囲の困惑に気づくことなく活動し続けてしまいます。
うつ状態(大うつ病エピソード)
躁状態、軽躁状態のときは本人は気分爽快で調子がよいと感じますが、うつ状態のときは逆に具合が悪いと感じます。
気力ではどうにもならないくらいのうっとうしい気分が一日中、何日も続くという「抑うつ気分」と、すべてのことにまったく興味をもてなくなり、何をしても楽しいとか嬉しいという気分がもてなくなる「興味・喜びの喪失」の二つが、うつ状態の中核症状です。
これら二つのうち少なくともひとつ症状があり、これらを含めて、下記のようなうつ症状のうち、5つ以上が2週間以上毎日出ている状態がうつ状態です。
- 気分が落ち込む
- 寝てばかりいる
- やる気が起きない
- 楽しめない
- 疲れやすい
- なにも手につかない
- 自分には生きる価値がないと自分を責めてしまう
- 決断力がなくなる
- 死にたくなる
- 食欲がなくなる
双極性障害では、最初の病相状態(うつ状態もしくは躁状態)から、次の病相まで、5年くらいの間隔があります。躁やうつが治まっている期間は何の症状もなく、健常な状態になります。
しかし、この症状が治まっている期間に薬を飲まないでいると、多くの場合は繰り返し躁状態やうつ状態が起こります。治療がきちんとなされていないと、躁状態やうつ状態という病相の間隔はだんだん短くなっていき、薬も効きにくくなっていき、年間に4回以上の病相がある状態になってしまいます。
双極性障害で繰り返される躁状態の期間とうつ状態の期間を比較すると、うつ状態の期間のほうが長いことが多く、また本人は躁状態や軽躁状態の自覚がない場合が多いので、多くの人はうつ状態になった時に、うつ病だと思って受診します。そして病院にかかっても以前の躁状態や軽躁状態のことがうまく医師に伝わらない場合、治療がうまく進まないことがあります。 このように、双極性障害が見逃されている場合も少なくありません。
4.双極性障害の診断方法は?
双極性障害の検査方法は、現在のところ確立されていません。双極性障害は正しく診断を受けるまでに平均7.5年かかったというデータもあるほど、検査が難しいと言われています。
適切な治療を受けられないまま過ごしていると、とくに躁状態での問題行動によって職を失ってしまったり、パートナーと離婚してしまったり、借金してしまったりして、その後の社会生活に大きな後遺症を残すことにもなりかねません。できるだけ早く治療を開始することが必要です。
うつ病の診断を受けて治療しているにもかかわらずなかなか良くならず、自分が双極性障害かもしれないと思い当たる場合には、精神科やメンタルクリニックなど、精神科を専門とする医師に相談してみましょう。
その際には、例えばうつ状態になる前に、明らかに普段よりおしゃべりになったことはなかったか、あまり睡眠をとらずに活動したことはなかったかなどを、自分では分からないので過去の躁状態についてご家族や友人に聞いてみて、それを医師に伝えましょう。ご家族や親戚に精神科にかかったことのある方がいる場合には、そのことも伝えると、より正確な診断の参考になります。
5.双極性障害の治療法は?
双極性障害は再発率が90%以上と非常に高く、慢性の経過をたどることが多いです。そのため、医師には全体の経過を把握して、その時点の病相にとらわれず治療計画を立ててもらい、本人は病気についてしっかりと理解することが重要です。
具体的には、薬物治療と心理社会的治療が用いられます。
薬物療法としては、気分安定薬の使用が中心となります。 統合失調症の治療に用いる一部の非定型抗精神病薬も、双極性障害への有効性が認められています。
薬物療法
■躁病相期の薬物療法
気分安定薬の使用が中心となります。効果を得るには十分な血中濃度が必要であるため、定期的なモニタリングが行われます。気分安定薬のみで効果が不十分な場合、抗精神病薬が併用または単独で使用されることがあります。
■うつ病相期の薬物療法
気分安定薬を十分量使用することが重要です。思い抑うつ状態の場合には、抗うつ薬が使用される場合があります。しかし、躁状態となる(急速交代化)危険性があることから、抗うつ薬の使用については議論されています。
■再発予防
双極性障害は再発率が90%以上であり、気分安定薬の使用による維持療法が重要です。気分安定薬のなかでも一部の薬剤には再発予防効果があるとされていますが、導入時に発疹が出現する場合があり重症化しやすいため、十分な注意が必要です。また、気分安定薬に加えて抗精神病薬にも再発予防効果があることが報告されています。
心理社会的治療
■心理教育
心理教育は本人が双極性障害について学び、理解することで、病気をコントロールできるようになることが目的です。そのため、発症の初期に大変重要となります。
■家族療法
本人だけでなく、家族も双極性障害の理解を深め、本人と家族が協力して病気に立ち向かえるようにすることが目的です。再発を防止するためには、服薬の継続に加えて家族の協力が大変重要です。
とくに、激しい躁状態は本人は調子よく感じている中で家族にとっては大きな負担となり、病気によるものだとわかっていてもストレスとなってしまいがちです。そのような負の感情が双極性障害を持つ本人に伝わり、それによるストレスが病状を悪化させてしまうような悪循環に陥ります。家族療法は、このような悪循環を断ち切るためにとても有効です。
■認知療法
うつ状態ではとにかくネガティブなので、ちょっとしたことでも自分を責めてしまいがちです。物事を肯定的に捉える練習をすることで、うつ状態を乗り切るための考え方を身につけるのが認知療法の目的です。
■対人関係・社会リズム療法
社会リズム生活リズムの乱れが症状の悪化の要因となります。対人関係・社会リズム療法は、「対人関係から生じるストレスやこの病気にかかってしまったことに対するストレスを軽減させる対人関係療法」と、「社会生活のリズムを規則正しく整えることを目的とする社会リズム療法」を組み合わせたものです。
対人関係療法は、対人関係からくるストレスを軽減し、家族や職場・学校の仲間、友人などとの良好な人間関係を回復させ、再発を防ぐために行います。よい対人関係を築くことで周囲の人たちに病気を受け入れてもらうことができ、そしてサポートを受けることができるので、治療の動機づけと症状の改善につながります。
社会リズム療法では、起床時間や出勤時間、周囲から受けた刺激の度合いなどを記録していくことで、自分の生活リズムがどのようなものか、どんな場合に自分の社会リズムが不規則になりやすいかを理解することができ、そこにたいして対策・修正できるようになります。
6.まとめ
うつの症状が出ながらも、うつ病とは違う双極性障害(躁うつ病)について詳しくまとめました。
- 双極性障害は気分が高まったり落ち込んだり、「躁状態」と「うつ状態」を繰り返す脳の病気
- 激しい躁状態とうつ状態のある双極Ⅰ型と、軽い躁状態(軽躁状態)とうつ状態のある双極Ⅱ型がある
- 中学生から老年期まで、幅広い年齢で発症し、かかりやすさに男女差はなく、20代から30代前後に発症することが多い
- 双極性障害の原因はいまだ明らかではないが、うつ病と比較して遺伝的な要素の影響が大きいといわれている
- 遺伝的背景に加えて、性格や、過労、心理的葛藤、身体疾患、社会的要因などのストレスが加わって発症する「ストレス脆弱性モデル」が主な原因として考えられている
- 双極性障害の検査方法は、確立されていないが、精神科やメンタルクリニックなど、精神科を専門とする医師に相談するとよい
- 双極性障害は再発率が90%以上と非常に高い
- 治療法には「薬物療法」と「心理社会的治療」が用いられる
- 双極性障害は適切な治療を継続することで、症状を抑えて普通の生活を送ることができる
双極性障害は、薬物療法などによって治療が可能な疾患です。きちんと医師の指示に従って投薬を行う、生活を規則正しく行うなどによって症状が改善するといわれています。
しかし、双極性障害は治ったと思っていても、再発を繰り返しやすい病気です。再発しないようにするためには規則正しい生活を送ることを引き続き注意しながら、長期にわたって薬を飲み続ける必要があります。
適切な治療を継続すれば症状を抑えて普通の生活を送ることができますし、そうやって仕事を続けている方も現にたくさんいます。薬を飲み続けることによって病気をコントロールし普通の生活を送ることができますので、心配しすぎてストレスにならないように気をつけ、普通の状態で生活を送れるようになりましょう。